80歳が運転して大丈夫? 「個人タクシー」年齢上限引き上げ、地方で始まった壊滅へのカウントダウン
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地方の公共交通は壊滅寸前

1942(昭和17)年の開業当時から地域を見守ってきたレトロな駅舎を出ると、こぢんまりした駅前ロータリーに出る。しかし、タクシー乗り場の白線は消えかかっている。徳島県南部の漁村・牟岐(むぎ)町のJR牟岐駅前。かつては列車の到着時刻に2~3台のタクシーが客待ちしていたが、その姿は見られない。
牟岐駅は県庁所在地の徳島市や香川県高松市、岡山市行きの列車が発着し、駅前から路線バスが隣町へ向かう交通の要衝だった。しかし、町の人口は40年前から半減し、9月現在で約3600人に落ち込んでいる。高齢化率は50%を超し、限界集落ならぬ限界自治体となった。かつての活気はどこにもない。
町内には福祉タクシーを除いてタクシー会社が2社あるが、運行車両は3台だけ。うち、2台を運行する牟岐タクシーは73歳と72歳の経営者夫婦が乗務員を務めている。以前は5台の車両を抱えていたが、
「募集しても人が集まらないし、そもそも需要がない」
と肩を落とす。
高齢の乗務員がひとりでも倒れると、町の公共交通に穴が開くぎりぎりの状況。牟岐町企画政策課は
「タクシーは高齢者の通院や買い物に欠かせないが、今のままで10年、20年先まで持続できない」
と渋い口調。近隣の地方自治体も似たり寄ったりの厳しい状態だ。
政府のタクシードライバー80歳上限案

壊滅寸前の地方のタクシーを救うため、国土交通省は新方針を打ち出した。
人口おおむね30万人以上の都市部に限定して営業を認めてきた個人タクシーを地方で解禁し、年齢の上限を地方に限って原則75歳から80歳に引き上げる内容。1年以上の個人タクシー経験を持ち、地元の法人タクシー会社で健康面のチェックを受けることなどが条件となる。
狙いは都市部の個人タクシー乗務員に地方へ移住し、開業してもらうことだ。国交省は10月14日までパブリックコメントを受け付けており、内容を精査したうえで10月中にも施行する方針。
国交省旅客課は
「地方の公共交通は危機的状況。地方で得られる収入は都会ほど多くないが、5年長く営業できることをインセンティブに移住が進んでくれたら」
と期待する。しかし、80歳といえば運転免許の返納を求められてもおかしくない年代。80歳にハンドルを任せることに対し、疑問の声が少なくない。