安全か効率か? 高速トラック「80km制限撤廃」問題、あちら立てればこちらが立たぬ多事争論のカオス状態
2024年以降も一層悪化する?
しかしながら、トラックドライバーの不足は「2024年4月を乗り越えれば何とかなる」という問題ではない。高齢化のさらなる進行などにより2024年以降も一層悪化すると予想されているからだ。
NX総合研究所の試算によれば、2024年問題の発生により不足する輸送能力の割合は14.2%だが、2030年度には
「34.1%」
にまで増加する。つまり、長い目で見た施策も必要なのである。
速度制限が引き上げられれば、トラックの設計思想も変わる。スピードリミッターも端から装着されなくなる。最高速度100km/hを前提に設計されたトラックが発売され、徐々に置き換わっていけば、速度規制を引き上げたことの効果も高まるはずである。
速度規制の引き上げを求める業界団体は前記の全国物流ネットワーク協会だけではない。一般の運送会社の業界団体である全日本トラック協会も長年にわたって速度規制の引き上げを求めている。
「運送会社の経営判断」
として最高速度を上げた方がよいとの認識だからだろう。
とすると、速度制限が引き上げられたのにもかかわらず、リミッターを解除しないなどということが考えられるだろうか。燃費が多少低下するからといって、あえて80km/hでの走行を維持し続けるだろうか。
すべてが即座に変わるとはいえないが、速度規制を引き上げたことの効果が比較的短期に現れる可能性もある。
科学的・客観的な検証をもって判断すべきだ
トラックの速度規制を引き上げることの社会的な影響は大きい。
仮に事故が発生すれば、乗用車にも影響が及ぶ。人命を損なうリスクもある。それゆえに、速度規制を引き上げたからといって本当に事故は増えないのか、科学的に検証することが肝要である。
場合によっては、速度規制の引き上げを特定の区間や先進安全装備を装着したトラックに限定することを視野に入れてもよいのではないか。
ドライバーの負担が大きくならないか、100km/hで走行するようになるかといったことについても、統計的に有意な方法で調査し、
「引き上げありき」
ではない客観的な分析を行うことが望まれる。2024年問題に対応しなければならないからといって、非合理な意思決定を下し、結果的に事故が増えたり、ドライバーの負担が増したりすれば本末転倒である。
今後は、警察庁に設置された有識者からなる検討会にて協議が進む。その際には、ぜひとも
「2024年問題を脇に置いた検討」
を期待したい。速度規制を引き上げても安全であるのなら、2024年問題がなくとも実行すべきとの結論に至るはずである。