福島・阿武隈急行に「バス転換」が急浮上したワケ 他の県内3セク鉄道より“輸送密度”高いのになぜなのか
観光面だけではない鉄道維持
アピールしたい沿線の観光資源のひとつに、やながわ希望の森公園駅近くの「西口駅」と公園側の「東口駅」の間の約800mを結ぶミニSL「さくら1号」がある。
1987(昭和62)年4月18日に開業した遊戯施設だが、本物のSLが客車をけん引する本格派だ。阿武隈急行の駅に近い場所と同公園を結ぶ事実上の輸送機関として機能している点も特筆される。同公園を管理する伊達市は
「SLの利用は桜の開花シーズンとGWに集中し、運行シーズンを通した活性化が課題。施設も老朽化しており、大規模修繕には多額の資金を要する。鉄道ファンの団体と連携し、集客・活性化に努めている。今後さらなるPRも検討していきたい」(梁川総合支所業務防災係)
と話す。
阿武隈急行の千葉部長によると、やながわ希望の森公園駅を含む、梁川~丸森間は
「当社の中では利用の少ない区間で、特に兜~丸森間はトンネルなどがあるため、他の区間と比べると多くの費用がかかっている」
という。
鉄道利用を促すために、同公園とのコラボ企画とともに、民間活力を導入して、同公園とSLのリゾート機能を強化するなど検討の余地がある。改善の余地が大きいことは、ポテンシャルの大きさの現れでもある。同公園を含む沿線の観光資源を磨き上げることで、鉄道利用を増やすことができるはずだ。
鉄道を維持するメリットは、観光面だけではない。運輸業界の乗務員不足が深刻化している昨今、阿武隈急行線を鉄道として維持できれば、代替バスにかかる乗務員募集を行わずに済む。
バス乗務員は人的資本であり、広く捉えれば社会的共通資本(社会共通の財産)と解釈することができる。社会の価値を高める資本(資源)であるが、有限であることを意識し、阿武隈急行線の通らない地域のバス輸送維持を最優先に配属したい。鉄道を維持するための資金分担は、
「持続可能な地域と社会をつくるための投資」
であるとの考え方をステークホルダー(利害関係者)の間で広く共有する必要がある。