福島・阿武隈急行に「バス転換」が急浮上したワケ 他の県内3セク鉄道より“輸送密度”高いのになぜなのか
観光利用の少ない阿武隈急行
会津鉄道・野岩鉄道は、首都圏と会津地方を結ぶ連絡ルートを形成しており、両鉄道を維持しなければ、会津地方と首都圏のつながりの大きなひとつが絶たれてしまうことは確かだ。以上に加えて、沿線には観光資源も豊富で、観光利用も多い。
それに対して、阿武隈急行については
「観光利用はそれほど多くない」(阿武隈急行・千葉部長)
という。
実際、阿武隈急行の定期外収入割合は、3社のなかで最も低い。2020年度の割合は次のとおりだ。
・阿武隈急行:45%
・会津鉄道:61%
・野岩鉄道:98%
観光は、多くの効果を地域や観光・交通事業者などにもたらす。国内日帰り観光客75人分の消費額は、定住人口ひとりあたり年間消費額(130万円)とほぼ同等であるという(観光庁「観光を取り巻く 現状及び課題等について」2021年11月25日)。
定住人口を増やすことは難しいが、観光客を増やすことは十分に可能だ。観光利用を獲得できれば、阿武隈急行線の輸送人員が増えて増収となるとともに、沿線地域での消費拡大も期待できる。沿線の所得増の恩恵を還元する方策として、関係自治体が鉄道施設を保有する上下分離を行えば、持続可能な鉄道への後押しとなる。
阿武隈急行が発売している企画乗車券は、観光誘客の重要なツールだ。阿武隈急行・福島交通の鉄道線全線1日乗り放題と飯坂温泉入浴券をセットにした「飯坂温泉日帰りきっぷ」(1500円)などが、すでに発売されている。JR東日本の「週末パス」でも、阿武隈急行線を利用できる。さらに他の鉄道事業者とも提携し、新たな企画乗車券の発売を考えたい。
例えば、JR線・仙台空港鉄道線・阿武隈急行線・福島交通線の共通フリーパスを発売することも一考だ。JR線のフリー区間を松島海岸⇔福島に設定すれば、松島海岸・仙台・仙台空港⇔飯坂温泉間の「周遊コース」が出来上がる。
有効期間を2日以上に設定することで、例えば、1日目は飯坂温泉、2日目は松島や仙台で宿泊して、フリー区間内をゆっくり回遊するモデルコースを鉄道利用者・航空利用者などに提案できる。