福島・阿武隈急行に「バス転換」が急浮上したワケ 他の県内3セク鉄道より“輸送密度”高いのになぜなのか
バス・BRT転換を選択肢として挙げる検討会
しかし、沿線人口減少で定期収入の減少が予想されるのと反対に、資金需要や費用は増える見込みだ。阿武隈急行の千葉部長は
「関係自治体のご支援を得ながら、老朽化の進む車両・施設の更新を進める必要がある。昨今の電力費の上昇も悩ましい問題だ」
と話す。
現状では経費削減や増収策だけでは、経営改善は難しい。検討会は抜本的な経営改善の選択肢として、バス・バス高速輸送システム(BRT)転換を挙げているが、福島県は
「転換ありきではなく、あくまで経営の抜本的改善の選択肢として挙げている」(同)
と、意図を説明する。
それでも、当面は無理のない範囲で経費を削減を積み上げつつ、運賃値上げ実施と客数増の確保により増収を目指すことが取り組みの基本となるだろう。値上げについて、千葉部長は
「客離れを招きかねず、簡単に決められることではないが、必要性がないわけではない」
と、述べるにとどめる。
福島~槻木(つきのき)間の普通運賃(大人)は、JR990円、阿武隈急行980円である(2023年6月15日現在)。現時点で値上げが具体的に検討されているわけでないが、将来的に利用者に負担増を求めることはやむを得ない。
このように、阿武隈急行を取り巻く状況は厳しい。一方、同社の筆頭株主である福島県は近年、地域鉄道の維持に取り組んできたことをここで改めて確認したい。
同県は平成23年7月新潟・福島豪雨にともない、長期不通に陥っていた只見線会津川口~只見間の復旧を実現させた。同区間の1日輸送密度は当時、わずか49人だった(2010年度)。また、同県は会津鉄道と野岩鉄道にも出資しているが、両鉄道については
「三セクとなって以降、これまで在り方の協議が行われたことはない」(同)
という。
同県が出資する3社の1日輸送密度は、
・阿武隈急行:987人
・会津鉄道:393人
・野岩鉄道:205人
となっており、3社のなかで阿武隈急行が最も高い(2020年度)。それにもかかわらず、阿武隈急行だけが在り方を問われている。それはなぜか。