「僕はガソリン臭いクルマが好き」 2019年・豊田章男氏の“本音”にみる自動車メーカーの理想と現実、EV礼賛社会で考える
過激だった「ガソリン車35年禁止」

2023年は同年2月14日、欧州連合(EU)欧州議会が採択したクルマに関する法案は記憶に新しい。それは、2035年までにEU圏内で販売する新車は全てゼロエミッション(二酸化炭素の排出量実質ゼロ)の電気自動車(EV)のみとするもの。すなわち内燃機関を使用するクルマは全て販売を禁止するという、過激かつ過酷な内容だった。
この法案は程なくして、正式に採択され施行が決まった。しかしその直後からEU圏内でビジネスを展開していた自動車メーカーや関連企業からの反対意見が殺到することとなった。
その結果、わずか1か月後には、EVのみを容認するという姿勢を改めることとなった。条件付きで内燃機関の継続採用を容認する。ただし使えるのはCO2と水素を原料とするe-fuelのみとするという妥協策が出てきたのである。
ちなみにその後にイタリアからは「ならばバイオエタノールも認めろ」という意見が出された。すなわち状況はさらに混沌(こんとん)としたものとなっているのである。
EVは欧州で希薄な存在

実際のところ、こうしたドタバタはある程度予想できた。
2035年といえば12年後である。世界的な流れを見れば確かにEVシフトは加速している様に思える。それが国際社会でのコンセンサスであることもまた事実だろう。
とはいえ、EU圏内だけを見ても当初の加盟国と新規加盟国との経済格差は大きい。EV関連の各種補助金政策やインフラストラクチャー構築も含めて
「一律に」
というのはムリな話である。EU内の足並みが早晩乱れるのは想定内であり、それがわずか1か月で顕在化したのはむしろ早かった。
その上、欧州には自動車がこの世に誕生してから長年にわたって培われてきた文化というものがある。そのなかにおいて
「EVの存在意義はゼロ」
とはいわないがハッキリいって希薄であろう。現時点での自動車文化の中心とはあくまで内燃機関にある。内燃機関に対する特別の感情無しには成立し得ないといっても過言ではない。