JR西の長時間閉じ込め 「乗客を線路へ」なぜ即断できないのか

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大雪の影響で、JR京都線の車内に乗客が最大10時間近く閉じ込められた。その背景を過去の列車事故から考える。

「目的」に忠実であれ

北陸トンネル内で火災事故を起こした急行「きたぐに」。1972年11月7日撮影(画像:時事)
北陸トンネル内で火災事故を起こした急行「きたぐに」。1972年11月7日撮影(画像:時事)

 もちろん、ルールやマニュアルに忠実であることは、組織人として正しい振る舞いである。しかし、これは業務が通常オペレーションで動いている平時のことであって、想定外事象が発生している非常時には、必ずしもルールやマニュアルの順守が正解とは限らない。なぜなら、ルールやマニュアルは「想定される出来事」にどう対処すべきかを記したものであるからだ。「想定外事象」への対応は、そもそもルールやマニュアルに事前に書くことができない。

 ではどうすればよいのだろうか。この答えは「目的」を意識することである。桜木町事故の後、なぜ非常ドアコックが義務付けられたのか。三河島事故の後、なぜ乗客を安易に列車から降ろしてはいけなくなったのか。

 この他にも、鉄道各社や監督官庁は事故のたびにルールやマニュアルを改定しているが、それはなぜなのか。いずれも乗客の安全を守ることが目的である。この目的に対して忠実であるならば、ルールやマニュアルの逸脱は許容される、いやむしろ称賛されるべきであろう。

 しかし、実際にはその対極とも呼べる事例がある。1969(昭和44)年、北陸トンネルを通過中の列車で車両火災が発生した。この時、「トンネル内では消火活動は困難」だと判断した乗務員は、トンネルを抜けるまで列車を走らせ続け、犠牲者を出さずに済んだ。しかし、機転を利かせた乗務員は「即時停止の規定に違反した」として処分されてしまったのだ。

 この3年後の1972年、くしくも同じ北陸トンネルを通過中の列車で、再び車両火災が発生した。過去にマニュアル通りに列車を止めなかった乗務員が処分されていたこともあり、この時の乗務員はトンネル内で列車を急停車させた。その結果、煙が充満して消火活動ができなくなったトンネル内で、30人の犠牲者を出す大惨事となってしまった。

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