JR西の長時間閉じ込め 「乗客を線路へ」なぜ即断できないのか
「マニュアル順守なら大惨事」事例も

ひとまず安全が確認できるまで乗客を降ろさない、というルールは基本的には正しいだろう。ホームでの乗降を前提とした鉄道車両は、床面からレール面まで1m以上の高さがある上、バラストと呼ばれる砂利を盛った上に高さ15cmほどの線路を敷いているので、場所によっては地面まで相当の高さになる。
しかも地面は道路のように舗装されておらず、デコボコしていてけがのリスクが高い。単に降りるだけでも危険だが、並行する線路を別の列車が通ることもあるし、一部地下鉄など、線路脇から集電する方式では、感電のリスクもある。さらに、例えば鉄橋の上のように、そもそも下に降りられる地面がない場合もある。
先ほど「基本的には」と書いたのは、列車から線路に降りるのは危険ではあるが、状況次第では列車に残る方が危険な場合があるからだ。例えば2011(平成23)年に北海道・石勝線の第1ニニウトンネル内で起きた脱線火災事故では、乗客に対して外に出ずに列車内で待機するよう指示が出されたまま、その後の避難誘導が行われなかった。
マニュアルによれば、炎を確認し、運転指令にそのことを報告し、運転指令の指示によって避難誘導を開始することになっていた。しかし、この確認作業に手間取っている間に、煙が充満し始めてしまったのだ。
この事故では、煙の充満で身の危険を感じた乗客が自らの判断で逃げ始めたため、犠牲者を出さずに済んだが、列車はその後激しく炎上したので、乗客が乗務員の指示に従順に従って車内待機を続けていたら、恐らく多数の犠牲者を出していただろう。
一方で、この事故現場は単線区間で他の列車にひかれる危険はないし、非電化区間なので感電のリスクもない。線路までの高さの問題はあるかもしれないが、煙が充満するトンネル内で火災が起きている状況で、列車内で待ち続けるリスクと線路に降りるリスクのどちらが高いかを考えれば、答えは明らかであろう。