関東大震災100年 「鉄道」が果たした消防・救助活動への大きな役割を知っているか
関東大震災から100年目の年

2023年は、1923(大正12)年9月1日に起きた関東大震災から100年目の年になる。死者・行方不明者は10万人を超えるとされており、今でもその被害の甚大さは語り継がれているが、一方で当時の人々がこの震災にどのように立ち向かったかということはあまり知られていない。
今回紹介する鈴木淳『関東大震災』(講談社)は、副題に「消防・医療・ボランティアから検証する」とあるように、人々がこの震災にどのように立ち向かったかについて、歴史学者が掘り下げた本になる。
さまざまなことが書かれている本だが、ここでは消防活動と、救助活動において
「鉄道が果たした役割」
について紹介したい。なお、「学術文庫」ということでかなり硬い内容を想像するかもしれないが、もともとちくま新書として出版されたものの文庫化であり、難解なところはなく、ボリューム的にも手頃なものとなっている。
発生は午前11時58分

1923年9月1日は土曜日であり、地震の発生した午前11時58分はちょうどお昼時だった。多くの家庭で昼食のために火を使っていたことが火災につながったことはよく知られている。
しかし、それ以外にも発生が土曜の昼であったことはその後の対応に大きく影響した。当時、土曜は午前のみの勤務(いわゆる半ドン)だったため、地震発生時はちょうど東京府の職員が帰宅する時間帯だった。
仕事が本格化するのは復旧過程からになるだろうといった判断や、電話も通じず家族の安否が確認できないなかで、多くの職員は帰宅してしまった。
さらに、ときの政府は首相であった加藤友三郎が亡くなったために外相の内田康哉が首相を兼任している状態であり、閣僚の辞表を取りまとめて、第2次山本権兵衛内閣へ事務の引き継ぎを行おうとしていたタイミングだった。まさに政治的な空白の中で震災は起こったのである。