トラブル発生、自腹で弁償! 運送業界に巣食うドライバーの「ペナルティ制度」 功罪両方も、人材不足加速させないか
他産業でもある「弁償」ケース

誤解のないように補足しておくと、労働者の故意・過失に対し「弁償させられる」というケースは、なにも運送業に限らない。
そもそも民法では、故意・過失によって与えた損害に対し賠償する責任を負うことが定められており(民法709条)、また、会社が第三者に賠償を行った際、その責を負う従業員へ求償することの規定もある(同715条3項)。
一方、労基法では、いわば違約金のような形で「損害賠償の予定」の契約をすることを禁止していたり、判例では弁償を無効としたケースもあったりする。
ただし、弁償そのものが違法というわけではなく、諸条件によっては弁償を認められるということだ。極端な例でいえば、「顧客の財産を横領した」というような場合には、多くの場合、弁済を求められることになるだろう。
ただし、このように「明確な犯意」があるようなケースはともかく、運送業では
「うっかりミス」
のようなケースまでも弁償の対象となる場合があることが問題だ。例えば、労働者の過失によって会社の備品を故障させた場合に、弁償まで求められることは少ないだろう。
ペナルティーなしに事故が減らない現実

ただし、こと運送業界で、弁償という形でペナルティーが課される傾向があるのには、理由がないわけではない。
トラックは「うっかりミス」であっても重大な事故につながる可能性がある。小さな過失であっても、不特定多数の市民が被害を受ける可能性が高い以上、運送会社は自らの社会的責任として、他の産業以上に事故を減らす責務がある。
そして事故を減らすためには、何よりもドライバー自身の安全意識を高めることが重要であり、そのためには、教育訓練などに加えて、経済的なインセンティブも欠かせない。
実際、多くの運送会社では事故の少ないドライバーには「無事故手当」などの「アメ」を与える一方、事故惹起(じゃっき)者にはさまざまな金銭的ペナルティーを導入しており、それが安全対策の柱のひとつになっているのだ。
もうひとつの理由は「コスト削減」

このように、ドライバーの弁償を行う理由のひとつは安全であるわけだが、これと並ぶもうひとつの理由は、言うまでもなく
「コスト削減」
である。
運送会社は通常、売り上げの3~5%程度の損害保険料を支払っており、そのコスト負担は重い。運送会社の経営指標を見ると、近年の平均値では「赤字レベル」が常態化しているのだが、事故の発生により保険料率が上がってしまうと、経営が成り立たないという企業も少なくない。
そのような企業が、保険料率の上昇で経営が傾くくらいなら、事故を起こした当事者に弁償させるほうがよい、と考えるのも「心情的には」理解できないことはない。