「SL = オワコン」で本当にいいのか? 「人吉」は24年消滅、ロマンと現実で揺らぐ鉄道遺産死守という大義名分
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2024年3月運行終了

JR九州が10月24日、熊本~鳥栖(とす)間を走る蒸気機関車の観光列車「SL人吉」58654号機の運行について、2024年3月に終了することを発表した。車齢が100年に達し、部品が手に入らなくなり、整備のための技術者も確保できなくなったからだ。
58654号機はかつて「SLあそBOY」に使用されていた。SLは当時すでに不調で、後部に補機を連結していた。豊肥(ほうひ)本線は勾配がきつめの路線で、また、SL自体の老朽化や部品の破損などがあったため、SLあそBOYは2005(平成17)年に運行が終了した。
しかし、58654号機は小倉工場で修復された。肥薩(ひさつ)線開業100周年の2009年に合わせ、熊本~人吉間で「SL人吉」として運行されることになった。この際に台枠を新製し、ボイラを修繕。すでに、新造時の部品はほとんど残っていない状態だった。
1988(昭和63)年に静態保存時から復元した際にも、大がかりな修復を受けていた。その上、肥薩線は2020年7月の豪雨で八代~吉松間が不通となり、列車を運転することができなくなった。
その後は、各地をまわることに力を入れた。アニメ映画『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』とコラボレーションした「SL鬼滅の刃」、ゲーム『桃太郎電鉄 ~昭和 平成 令和も定番!~』とコラボレーションした「SL桃鉄号」などが運行された。
決して明るくないSLの将来

車体のほとんどが新しい部品に入れ替わったとしても、すでに最初の修復から30年以上はたっていた。SLは整備をていねいにすることも必要だ。トータルの車齢は100年。部品は手に入らず、技術者もいない。その上、JR九州の鉄道事業はコロナ禍で厳しい状況にあった。
SLを走らせている余裕もなければ、人材育成のための余力もなかった。58654号機は8620形であり、1914(大正3)年から世に送り出された。大正時代の技術を維持しているのだ。
58654号機は1922年に完成した。現存する復活蒸気機関車としては、もっとも古いものである。企業活動で当時のものをメンテナンスしながら使用していくことは、容易ではないことは想像できるだろう。
このように、維持管理が大変なゆえに、鉄道会社がSLの復活運転を持続させることが難しい状況が起こり始めている。SL列車は、乗る対象として、あるいは被写体として人気があるものの、その将来は決して明るくはない。