東京の「舟旅通勤」は事業化できるのか? 江戸期の舟運からじっくり考察する

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東京都と品川区による「らくらく舟旅通勤」第2弾の可能性とは。江戸を通して考える。

江戸っ子ライフスタイルを提案する通勤

「東都名所八景之内 両国橋秋月」歌川芳虎(画像:国会図書館デジタルコレクション)
「東都名所八景之内 両国橋秋月」歌川芳虎(画像:国会図書館デジタルコレクション)

 このルートはあまりに時間がかかるということで、船内では酒が売られるらしい。一之江に着くころには良い感じにできあがっているというわけだ。

 仕事帰りに舟で一杯やって家路につく。屋形船で川遊びをしているみたいで、仕事が終わってから飲みたくもない上司と居酒屋で飲みにケーションに付き合うくらいなら、舟で対岸の夜景を見ながらひとりで一杯やるのも乙なものだ。それは江戸時代の川遊びを模しているようでもある。もしも東京都が船旅通勤を通して江戸っ子のライフスタイル再現を提唱しているのなら、ずいぶんと思い切った実験だ。

 コロナ感染症の流行で、都市部の働き方改革はいや応なしに進み、時間の概念も大きく変わった。舟旅通勤は、かつての水の都・江戸の遺産を受け継ぎ再利用しながら、現代の時間と空間の使い方を問いているのではないか。

 舟旅通勤で目指すのは、通勤ラッシュの満員電車解消だけではないのかもしれない。船着き場にWi-Fi完備のコワーキングスペースができれば、雇用が生まれるきっかけとなるだろう。江戸の水運が復活することで、新たな東京のブランディングを構築することも可能だ。

 ただ問題は、やはり時間がかかるということだ。東京でも、電車が遅れて遅刻しても許さないし、残業して当たり前という企業がまだ多いのが実情だ。たとえ船のWi-Fiで仕事していても、出勤扱いにはしてくれないかもしれない。

 舟旅通勤の成功は、都内企業の意識改革にかかっているとも言えよう。個人的には、用もないのに天王洲から一之江までのコースでひとり飲みする、ヘビーユーザーになりそうである。

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