東京駅のような駅舎の「復原」が近年、一筋縄では行かなくなったワケ

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歴史遺産などを、残された資料や図面から再現することを「復原」という。近年、その復原が低調だ。いったいなぜなのか。

原宿駅に見る復原の低調ぶり

2020年に供用開始した原宿駅舎(左)と旧原宿駅舎(右)。現在、旧原宿駅舎は解体されている(画像:小川裕夫)
2020年に供用開始した原宿駅舎(左)と旧原宿駅舎(右)。現在、旧原宿駅舎は解体されている(画像:小川裕夫)

 歴史遺産・文化遺産と現代の法令や技術とを共存させるには、どうしたらいいのか。それは一筋縄ではいかないが、それでも難題に挑みながらも貴重な駅舎の保存活動が盛んだった時期もあった。

 しかし、近年は駅舎の保存や復原が低調になっている。それを端的に表しているのが原宿駅の旧駅舎だ。原宿駅の旧駅舎は、ハーフティンバー様式の木造駅舎として歴史的な価値が高いと評価されていた。

 そうした背景から、渋谷区や地元住民などが駅舎の保存を要望していた。保存を求める声に対して、所有者のJR東日本は老朽化や耐火性を理由に木造駅舎の解体を決める。その代替案として、JR東日本は踏襲したデザイン、似たような部材で駅舎を復原するとの方針を示した。2020年、原宿駅は新駅舎の供用が開始され、その後に旧駅舎は解体された。新駅舎は旧駅舎とはまったく異なるデザインで、旧駅舎の復原が待たれている。

 前述したように、建築基準法や消防法といった法令面、冷暖房やバリアフリーといった設備面が駅舎の忠実な復原を阻んできた。こうした要因は、駅舎の復原だけを阻んでいるわけではない。社寺建築・城郭建築・庁舎建築をはじめ近代建築でも直面する問題となっている。

 しかし、駅舎にはそうした建築物とは大きくは異なる事情がある。それが、駅舎は鉄道会社の資産で、稼ぐためのツールとして活用されることを前提にしている点だ。東京や大阪といった大都市圏において、駅前や駅ナカは一等地。特に、近年は駅ナカや駅ビルの商業施設が活況を呈している。これらを高層化させて賃貸収入を増やそうと考えることは企業として当たり前の発想でもある。

 旧来の中低層駅舎は、多くの店舗を入居させて賃貸料を多く稼ぐことができない。採算を考える必要がない社寺建築・城郭建築・庁舎建築と駅舎では、このあたりの経済的な事情がまったく異なる。

 コロナ禍や人口減少などにより、運輸収入が伸び悩む鉄道各社にとって駅ナカや駅ビルの不動産収入は魅力的に映るだろう。それらの稼ぎによって、鉄道を支えているという大義名分もある。それゆえに、鉄道会社に名駅舎を残せと強く迫ることもできない。

 慣れ親しんできた駅舎を残したい――誰もがそんな郷愁を抱くだろう。しかし、名駅舎といえども老朽化を理由に改修されて、変哲のない駅ビル・駅舎へと姿を変えてしまう可能性は確実に高まっている。

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