「愛犬と旅行に行きたい!」4000億円市場を変える“肉球経済”をご存じか
空白のインフラと収益構造

街を歩くと、犬と一緒では入れない場所が多く、不便さを感じる場面がまだ多い。調査結果を見ても、ペットと一緒に泊まれる宿泊施設を求める声が62.0%にのぼるのをはじめ、食事できる飲食店が60.4%、買物できる店舗が55.0%、そして乗れる交通機関が53.1%と、いずれも過半数がもっと増えてほしいと声を上げている。こうした数字が物語るように、利用したいという需要は確実に存在するものの、社会側の受け入れ態勢がまだ追いついていないのが実態だろう。
とりわけ街なかの移動は課題が大きい。泊まる部屋の中では歓迎されても、一歩外に出ると犬と入れる店が見つからず、お出かけの足が途中で途切れてしまう。この寸断が、旅行全体の満足度を下げる大きな要因になっている。これからの観光地の値打ちは、個別の拠点が優れているかという点だけでなく、移動から買い物までを通して途切れなく過ごせるかどうかに左右されるようになってきている。
こうした「肉球経済」の広がりは、特定の業種だけに利益を集中させるものではない。観光に関わるさまざまな領域で、潤う顔ぶれが変わりつつある。
宿泊や観光関連の施設は、受け入れのための初期投資が必要になるが、お金を多く使う層を直接取り込むことで元を取るスピードは早まりやすい。一方で鉄道やバスなどの交通事業者も、受け入れ条件の見直しが進めば、新たな利用者を引き受ける余地があるはずだ。
その反面、市区町村などの自治体は、観光振興の恩恵を期待できる一方で、ルール作りや住民との調整といった負担を抱え込むことになる。受け入れ拡大にともない、安全や衛生面の管理コストが増えるほか、犬を飼わない観光客や地元住民とのあいだに立つ役割も増していく。こうした役目が自治体側に集中しやすい点は見過ごせない課題だ。
民間事業者の利益が先行し、公共側の負担ばかりが増える構図を避ける知恵が、今まさに求められている。観光団体や自治体は、増えた税収や経済効果を交通基盤の整備や地域への還元に振り向け、エリア全体でお金を回していく形を整えなければならない。飼い主の消費行動が強まるなかで、市場の拡大と同時に、受け入れの進む場所とそうでない場所との格差が広がりつつあるのが今の状況である。