「陸の孤島」が、いまや企業に選ばれる? 東九州道10年、1.6兆円で変わった物流・工場・地域経済の勢力図とは
強者が制する市場と地域の空洞化

東九州道がつながった利点を余さず自らのものにできるのは、高速輸送の仕組みを自社の業務の流れに深く組み込める企業だろう。
物流の世界を見れば、短い納期を確実に守り、広い範囲への配送をさらりとこなす主体が有利になるのは間違いない。特に一次産業では、大量の物資を広い市場へ送り出せる力のある事業者が、かつてないほどの優位に立つ。大型トラックの行き来が増える以上、道沿いの施設側にも、そうした車両を優先して受け入れる姿勢が求められてくる。
ここで勝ち残るのは、広がった経済圏を丸ごと制圧できるような、資本力の強いプレイヤーだ。高速道路を移動の手段としてだけでなく、時間を自ら管理するための道具として使いこなす企業が、地域に根ざした小規模な競合を抑えて利益をさらっていく。観光業でも同じことがいえる。広いエリアからの集客に応えられる大きな施設を持つ事業者が、遠方の客を確実に取り込み、稼ぎを独占する流れは止まらない。市場が広がることは、その広さを力で支配できる者に利益が偏っていくことでもある。
一方で、かつて分断されていた都市が結ばれた陰で、その恩恵にあずかれない場所も浮かび上がってくる。地域の外へ目を向けず、限られた範囲だけで活動を完結させている場所では、せっかくの高速道路を経営に活かす知恵が働かない。道がつながっていない地域や、ただ通り過ぎるだけの場所では、人やお金といった資源が周りの拠点都市へと吸い取られてしまう。
地理的な孤立という“壁”に守られてきた小さな経済圏は、いまや外部の強大な資本の波にさらされている。配送の網や休み場の不足といったインフラの弱さをはねのけられず、交通の便が良くなったことを自らの伸びしろに変えられない地域は、活力を失って空洞化していく恐れがある。高速道路ができたからといって、全ての地点が足並みを揃えて豊かになるわけではない。拠点への集中を加速させ、変化についていけない場所を突き放す側面も、この道は持ち合わせている。