「脱炭素の正義」はどこへ消えたのか?──EVバッテリー鉱物9倍需要と人権崩壊の現場とは

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EV市場は2025年に2100万台規模へ拡大し、バッテリー鉱物需要は2050年までに9倍に増加する見通しだ。その裏でサプライチェーンの人権リスクが露呈し、企業統治の再構築が急務となっている。

EV急成長の裏に潜む人権の闇

自動車(画像:Pexels)
自動車(画像:Pexels)

 SDGsの達成やカーボンニュートラルの実現に向け、温室効果ガス削減の動きが世界中で勢いを増している。その象徴である電気自動車(EV)への急速な移行において、2025年の世界の新車販売に占めるプラグインEVの販売台数は2100万台に達した。これは新車全体の4分の1を超える規模で、前年から20%の伸びを記録している。2023年にテスラの「モデルY」が世界で最も売れた車となった事実に象徴されるように、車をめぐる潮流の変化は極めて速い。特に中国市場の熱量はすさまじく、2024年12月時点で累計販売台数は2209万台に上った。

 市場の成長は、2026年以降も加速する見通しだ。国際エネルギー機関(IEA)の予測によれば、2024年から2050年の間にEVバッテリーに使われる鉱物の需要は、今の

「約9倍」

まで膨らむという。需要が爆発的に増えるなか、人権を守りながら素材をいかに確保するかという問いは、今や企業の生き残りを決める条件となりつつある。

 光が強ければ影も濃くなる。鉱物の採掘現場では人権侵害が深刻な問題となっており、特に管理の目が届きにくいコンゴ民主共和国やフィリピンなどの途上国では、悲痛な訴えが絶えない。

 こうしたサプライチェーンの闇に警鐘を鳴らしたのが、アムネスティ・インターナショナルが2024年10月に出したリポートだ。世界の大手メーカー13社を対象に人権問題への向き合い方を採点した結果、最高得点のメルセデス・ベンツでさえ90点満点中の51点にとどまった。対して日本の三菱自動車は13点、中国の比亜迪(BYD)は11点という極めて低い評価を突きつけられている。

 この点数の開きは、人権への配慮がもはや特定の市場で商売を行うための“通行証”になったことを意味する。多くのメーカーが国際的な物差しを満たせていない現実は、これまでのビジネスのやり方が限界に来ている証左といえる。

 サプライチェーンの隅々まで見通しを利かせ、働く人の権利を重んじる。そんな当たり前のことが求められる産業構造へ変えていかなければ、将来、主要市場から締め出される恐れもある。世界中の企業に対し、人権という土台を据え直すための抜本的な変化が迫られている。

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