「中国勢がシェア9割」 インドネシアEV市場、10万台到達──人口大国インドネシアがマレーシアに敗れる“新市場序列”の衝撃
急増する販売台数

インドネシアにおけるBEVの勢いは、統計の数字を追うだけでも十分に伝わってくる。
2021年にはわずか71台だった販売台数は、翌2022年に1万台の壁を突破。その後も勢いは衰えず、2023年に1.7万台、2024年には4.3万台、そして2025年には10.6万台へと膨れ上がった。2022年の伸びが前年の約148倍という驚異的なものだったことを差し引いても、それ以降も前年比でおよそ2倍という高い成長率を維持している点は見逃せない。2026年に入ってもその熱は冷めておらず、1~2月の累計販売は2.3万台と、前年同期の3倍に近い伸びを記録した。
こうした急成長を背景に、ある種の「期待」が市場を覆い始めている。もし今後も前年比3倍のペースで市場が膨らみ続ければ、2026年末には30万台に届く。この成長曲線をそのまま将来に当てはめれば、2028年に市場シェアが80%を超えるという予測も、計算の筋道としては通ることになる。しかし、こうした威勢のいい数字が、現地の消費実態をそのまま映し出しているかといえば、話は別だ。
足元のBEV比率を冷静に見れば、2025年時点で13%、2026年2月時点でも15%程度にとどまっている。わずか2年でこれを80%にまで引き上げるには、年間の販売規模を60万台まで積み増さなければならない。前年の6倍を超えるような爆発的な普及には、流行に敏感な層だけでなく、より保守的な一般の購入層を巻き込む必要がある。だが、そのための地ならしが済んでいるとはいい難いのが現状だ。
普及を阻む壁としてまず立ちはだかるのは、価格の問題である。200万~300万円台(1.5万~2万ドル)という、現地の多くの人々にとって手の届きやすい実用的な低価格車が、まだ市場には足りていない。加えて、中古車としての価値が定まっていないことも、消費者の足を鈍らせている。売却時の価格が読めない車に対して、金融機関も融資をためらわざるを得ず、購入資金の工面という入り口の部分で制約が生じている。
現在、この市場の約9割を占めているのは
「中国勢」
だ。比亜迪(BYD)や奇瑞汽車などが低価格から中価格帯までを隙間なく埋め、供給体制を整えている。上海汽車GM五菱をはじめ、広州汽車AIONや吉利汽車といった顔ぶれも現地生産に本腰を入れ始めた。
とはいえ、作り手側の供給が増えたからといって、受け手側の需要が同じ歩調で広がると考えるのは楽観的すぎるだろう。不安定な電力供給や充電網の未整備といった社会インフラの課題をあわせて考えれば、あと2年で市場の8割がBEVに置き換わるという見通しは、あまりに現実から浮き上がった数字といわざるを得ない。