「理屈では勝てるはずでした」――ホンダ2.5兆円損失計上にみる、知能だけでは突破できない「現実の壁」
知能と物理の両立

アモデイ氏のエッセイは、自動車業界の経営者に重い問いを投げかける。いま取り組んでいる課題に対して、知能を高めることがどこまで役立つのか。まずそこを見極める必要がある。材料の開発では強い力を発揮するが、消費者の信頼を得るといった問題になると、知能だけで動かせる範囲はそれほど広くない。
次に考えるべきは、効果が現れるまでの時間である。シミュレーションの改良は数日で進むこともある。だが実車を使った試験には、年単位の時間がかかる。そして、目の前の制約が何なのかを正確に見抜かなければならない。技術の壁なのか。インフラなのか。それとも規制や社会の受け入れ方なのか。
こうした問いに向き合うことで、資源をどこへ向けるべきかが見えてくる。知能の効果が出やすく、物理的な制約が比較的少ない領域では、大きな前進が期待できる。材料の探索、生産工程の改善、法規制への適合といった分野だ。
一方で、インフラ整備や社会の合意づくりのように、知能の力だけでは動かせない領域もある。そこでは変化がゆっくり進むことを前提にした構えが求められる。
経営者が向き合うべき核心は、自社の工程のなかで何が物理法則に縛られ、何が知能によって回り道できるのかを見分けることだ。知能の効果が最も大きい場所へ資源を投じる。そして、物理的な詰まりが避けられない部分については、他の産業と手を組みながら解決の道を探る。
モビリティ産業は、鉄を曲げて製品を作るだけの分野ではなくなりつつある。アモデイ氏が描く知性のネットワークのなかで、現実世界を支える重要な拠点へ姿を変えつつある。
技術の可能性は大きく広がっている。その一方で、社会がそれをどう受け止め、どう慣れていくのかという不確かさも残る。アモデイ氏のエッセイは、驚くほど速い進歩の可能性と、人間社会の限界を同時に示している。
この現実を正面から見つめ、物理の重みと知能の速さを両方扱える企業。そうした企業が、次の時代で優位に立つことになる。