「理屈では勝てるはずでした」――ホンダ2.5兆円損失計上にみる、知能だけでは突破できない「現実の壁」

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AIは「100年分の進歩を5~10年で起こす」との見方が広がる一方、現実には物理法則や規制、インフラが変化の速さを縛る。就業人口約550万人を抱える自動車産業は、知能の力と現実の制約の間でどこまで前進できるのか。アモデイ論考から、その行方を探る。

変化の速度を決めるもの

 アモデイ氏の論考が示しているのは、技術の可能性が広がるという話だけではない。知能では解けない現実を、かなり冷静に見ている点である。

 モビリティ産業は、目に見える製品を扱う。ソフトウェアのように画面のなかだけで完結する世界とは違う。材料を調達し、工場で組み立て、公道で試し、そして消費者のもとへ届ける。その一連の流れには、どうしても削れない時間がある。

 規制の壁も厚い。安全基準や排出ガス規制、労働法といった枠組みは、短い期間で変わるものではない。社会の受け止め方も同じだ。人々が自動運転を信頼し、生活の一部として受け入れるまでには、やはり時間がかかる。充電設備や道路、通信網といった基盤も欠かせない。AIがどれほど賢くなっても、これらは現場での工事を経て整えていくしかない。

 変化の速さは、いちばん遅い部分に引きずられる。高性能のEVがあっても、充電インフラが整わなければ広がりは限られる。安全な自動運転が実現しても、規制が認めなければ社会には広がらない。

 アモデイ氏は、生物学の進歩がいくつかの大きな発見に支えられてきたと述べている。こうした発見は知能の力が働きやすく、優れた研究者がいれば進み方も速くなる。モビリティ産業でも、材料科学やバッテリー技術では同じような加速が起きる可能性がある。

 ただ、社会に広げる速さを左右するのは、技術の進歩だけではない。制度の摩擦が大きく影響する。過去には原子力や超音速飛行が、不安や規制によって足踏みした時期があった。同じことを繰り返すわけにはいかない。

 ここで求められる知能の役割は、技術を生み出すことだけではない。AIを使い、安全性を数値で示し、社会との合意を早めていくことだ。物理の壁を正面から越えるのではなく、社会の側にある障壁を少しずつ低くしていく。そうした働きが、変化の速さを大きく左右する。

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