「脱エンジン」は早すぎた――V8・V12の咆哮再び、「BMW」「メルセデス」が理想より“官能”を選んだ理由
排気ガス規制の見直し

欧州委員会が進めてきた大方針の修正と歩調を合わせるように、次世代の排出ガス規制「ユーロ7」のあり方についても、極めて現実的な落とし所を模索する議論が繰り返されてきた。
2022年に欧州委員会が発表した当初の規制案は、内燃機関の息の根を止めかねないほど峻烈なものだった。有害物質の排出制限を極限まで引き上げるだけでなく、走行実態に即した極めて広範な条件下での路上排出ガス試験が盛り込まれた。さらに、これまで盲点となっていたタイヤの摩耗粉やブレーキダストといった非排気物質の排出規制を盛り込むなど、環境性能の基準を抜本的に引き上げる方針だった。
しかし、この厳格な要求をそのまま突き通すことは、自動車メーカーにとって耐え難いコスト増を招き、最終的な車両価格の高騰を招く。それは市場の購買力を削ぐのみならず、欧州経済の根幹を成す製造業の国際競争力を自ら破壊することと同義であるとの危機感が共有され、当初案からの大幅な後退を余儀なくされた。
その結果、2023年にかけて行われた合意内容の見直しにより、乗用車の排出ガス項目については当初案の苛烈さが影を潜めることになった。規制の矛先は粒子状物質(PM)の排出へと絞られ、ディーゼル車に対しては依然として厳しいハードルが課される一方で、ガソリン車にとっては開発の余地が残る有利な状況が生まれた。
ブレーキダスト等の規制は予定通り導入されるものの、それは環境負荷の低減を継続しつつ、メーカーが既存の内燃機関技術を維持することを許容する折衷案としての側面が強い。これは、環境保護という理想を掲げつつも、実利を重んじて産業界の疲弊を回避しようとする欧州の苦渋の決断の表れである。
メーカー各社の経営判断を大きく左右したのが、ユーロ7の適用時期の大幅な先送りだ。当初、乗用車は2025年7月、大型車は2027年7月からの実施とされていたが、これほどの短期間での対応は、既存の生産設備を強引に償却させ、膨大な数の雇用を抱えるサプライチェーンを破綻に追い込むリスクを孕んでいた。
最終的な採択案ではこの時期が先送りにされ、乗用車の適用は2028年へと変更された。この猶予期間の確保は、メーカーが内燃機関車から得られる高収益を、次世代技術への投資へと還流させるためのキャッシュフローを維持する時間を創出することになった。これにより、極端な規制を恐れて縮小を余儀なくされていた多気筒エンジンの開発計画が、高付加価値な製品としての生存の機会を再び得ることになったのである。