「トヨタ陥落」は必然だったのか?――「BYD」がシンガポールで首位、日本車敗北の構造と背後にある“都市国家”の論理

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シンガポールで2025年、BYDが新車登録首位に浮上。EV比率は45%に達しHVを超過。政府主導の制度と都市インフラが市場を動かし、従来の日本メーカーの優位を揺るがす変化の実態。

国家意思による市場上書き

シンガポール市場におけるBYDの躍進。
シンガポール市場におけるBYDの躍進。

 シンガポールで起きた今回の事態は、市場の勝敗だけで語れるものではなく、国家の意思が技術の優劣を上書きできることを示した。

 日本勢が長年培ってきた内燃機関の精緻さや堅牢性は、都市全体を巨大な電力ネットワークとして機能させる環境の下では、もはや評価の対象にすらならないだろう。世界中のあらゆる道路で走ることを前提に作られた万能車は、特定の地域に最適化された競争相手の前で、その合理性を失ってしまう。

 この流れは、世界の主要都市に確実に波及しつつある。各都市が独自のエネルギー政策や厳格な交通規制を打ち出す中で、メーカーに求められる役割は、優れた車両を供給することから、都市が求める社会構造の一部としてどう機能するかへと変化している。ソフトウェアによる制御を前提にした新たな勢力の台頭は、ハードウェアの品質だけで勝負が決まる時代の終わりを告げている。

 この現実は、日本の製造業にとって厳しい課題を突きつける。どれだけ優れた製品を送り出しても、その製品が活躍する土台となる社会の枠組みに受け入れられなければ、生き残る道は閉ざされる。

 技術の進歩を誇る以前に、変化する市場がどのような意思で動こうとしているのかを正確に把握する必要がある。シンガポールの事例は、一企業の浮沈を示すものではなく、競争の舞台が物理的な空間から、都市全体を司るシステムの中へと移行したことを明確に示しているのだ。

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