「トヨタ陥落」は必然だったのか?――「BYD」がシンガポールで首位、日本車敗北の構造と背後にある“都市国家”の論理

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シンガポールで2025年、BYDが新車登録首位に浮上。EV比率は45%に達しHVを超過。政府主導の制度と都市インフラが市場を動かし、従来の日本メーカーの優位を揺るがす変化の実態。

「ファインシティ」の規律と産業戦略

2026年1月23日発表。主要メーカーの電気自動車(BEV/PHV/FCV)販売台数推移(画像:マークラインズ)
2026年1月23日発表。主要メーカーの電気自動車(BEV/PHV/FCV)販売台数推移(画像:マークラインズ)

 シンガポールはしばしば「ファインシティ」と呼ばれる。この呼び名には、

・整備が行き届いた都市への称賛
・罰金の多い管理社会への揶揄

の両面が含まれている。しかし国民の間では、国家が示す理想像を共有し、その規律に従うことが自らの利益につながるという認識が根強い。政府が掲げるクリーンな都市という目標に対し、市民は消費行動を自然と最適化させる傾向を示す。

 罰則や規制のある統治下では、政府の方針に従うことがリスク回避にとどまらず、社会的に「賢明な市民」と見なされる行為にもなる。EVの選択は、こうした国家の規範に応じる手段のひとつとして機能している。

 同時に、シンガポールはEV関連の研究開発拠点としての存在感を高めている。2024年6月には、現代自動車が研究開発から製造、販売までを一体的に手がける「現代自動車イノベーション・シンガポール(HMGICS)」を開設した。都市を次世代技術の実験場として位置づける動きであり、バッテリーやソフトウェア制御に強みを持つBYDや、韓国勢の新規参入も相まって、情報のフィードバックループが形成されつつある。

 対照的に、HVを主力とする日本勢は、車両を単独の製品として完結させる従来の思想から抜け出せず、都市インフラと連動する新たな潮流から取り残される危険に直面している。政府が率先して環境性能の高い車両を調達し、民間が追随する構図が定着した今、従来の序列は事実上、意味を失っているといえるだろう。

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