列車に揺られる思想──移動そのものが観光になる理由【連載】平和ボケ観光論(7)
日本の鉄道は、列車の正確な運行と安全な環境が生む「無防備な移動時間」で、4270万人のインバウンド旅行者に心身の平穏を提供し、9.5兆円消費を支える。
アニメ聖地巡礼を支える安全性

日本のマンガやアニメを愛するインバウンドにとって、作中に登場する路線や駅舎を巡る「聖地巡礼」は、訪日の強い動機になっている。明治安田総合研究所が2025年5月に発表したリポートによると、日本滞在中に映画やアニメゆかりの地を訪れたインバウンドは、2016年の115万人から2024年には299万人(160%増)へと急増した。
ファンたちは、映像のなかで見た穏やかな風景が現実に存在することを確かめるため、駅へと足を運ぶ。アニメで描かれる安全で清潔な駅の空気感は、海外の視聴者には架空の理想郷のように映ることもあるが、日本の鉄道を実際に利用することで、それが日常のインフラとして現実に存在していることを知る。
・正確に運行される列車
・整列して乗車を待つ人々
・静かに保たれた車内
こうした光景は、作品が描く平和な世界観が虚構でないことを示す場となり、巡礼の旅に深い満足感をもたらしている。いわゆる「乗り鉄」の文化が根付く日本の交通網は、警戒を解いて感性を解放できる、世界でも稀な静謐な移動空間を提供しているのだ。