「インバウンドの迷惑行為」77%の正体――駅・電車で彼らの“悪意なき行動”が嫌われる理由とは? マナー違反で片づけてはいけない
移動空間への期待の食い違い

インバウンドの行動によって生じる摩擦は、
「マナーの良し悪し」
だけでは説明できない。背景にあるのは、移動という時間や空間に何を期待するか――という前提の違いだ。もう一度、項目を見てみよう。
・1位 騒々しい会話・はしゃぎまわり:69.1%
・2位 荷物の持ち方・置き方(鞄・傘等):41.9%
・3位 座席の座り方(詰めない・足を伸ばす等):26.2%
・4位 強い香り(香水・洗剤・柔軟剤・化粧品等):24.8%
・5位 扉付近での滞留:24.1%
・6位 乗降時のマナー(駆け込み乗車、乗車列への割り込み等):16.4%
・7位 優先席のマナー:10.7%
・8位 その他:10.6%
・9位 ゴミ・ペットボトル等の放置:8.6%
・10位 周囲に配慮せず咳やくしゃみをする:7.6%
調査で上位に挙がった騒々しい会話や荷物の置き方も、彼らにとっては特異な振る舞いではない。母国で身につけてきた公共交通の使い方に沿って行動しているだけのことが多い。多くの国では、鉄道は
・移動しながら会話を続けたり
・同行者との時間を楽しんだり
する場として捉えられている。車内での音量や荷物の扱いも、その延長線上にある。日本の都市鉄道は事情が違う。通勤や通学の合間に気持ちを切り替える場所であり、次の行動に備えるための静かな時間として使われることが多いからだ。周囲と距離を取り、流れを乱さずに過ごすことが暗黙の了解として共有されてきた。
この期待のずれが摩擦を生む。案内表示を増やし、設備を整えても、前提が食い違ったままでは違和感は消えない。インバウンドは観光の限られた時間を有効に使おうとし、その場その場で
「最も合理的だと感じる行動」
を取る。そして、日本の鉄道が長年積み上げてきた効率重視の運用と、噛み合わない局面が生まれる。
どちらが正しいかという話ではない。異なる前提で動く人々が同じ空間を共有していること自体に緊張が潜んでいるのだ。この構図を理解しないまま個々の行動だけを問題視しても、同じ指摘が繰り返されるだけだろう。問題の根は、行動そのものよりも深いところにある。その点を行動経済学(人間の非合理的な行動原理を解明する学問)の観点から整理し、日本の鉄道が抱える見えにくい歪みを掘り下げていく。