トランプの制裁で消えた200機! 翻弄された「イラン航空」空白の10年とは
過去最大の大規模発注

潮目が変わったのは2016年1月である。欧米諸国との核合意により、当時のオバマ大統領が対イラン制裁を解除した。これで航空機や部品購入の制約がなくなり、再び西側諸国の航空機を購入できるようになった。
イラン政府は2016年12月、エアバスからA320ファミリー46機、A330ファミリー38機、A350XWB16機の合計100機を発注した。同じく12月には米ボーイングとも、B737MAX 8を50機、B777-300ERを15機、B777-9を15機の計80機を発注する手続きを結んだ。さらに山岳地帯や小規模空港で運航されるATR72-600も20機を発注した。実現はしなかったが、三菱航空機のMRJ(後のSpaceJet、開発中止)やエアバスA380を購入するプランも存在した。
このうちエアバスA321とA330、ATR72-600は2017年より納品が開始され、発注のスピード感も際立っていた。当時のイラン政府がいかに航空機更新を急いでいたかがわかるだろう。さらに3社合わせた発注数200機は、ANAの過去最大発注数77機(2025年2月時点)の倍以上に達する。世界的に見ても、これほどの大規模発注を行ったのは、エアアジアやインディゴ、エミレーツ航空など限られた航空会社だけである。
まれに見る大規模発注は欧米側にとっても朗報となり、経済効果や新規雇用創出への期待も高かった。加えて2016年にはEUから安全性も保証され、ヨーロッパ乗り入れも再開された。2011年に廃止された北京経由の東京・成田路線も再開されるとの報道があり、日本からの関心も高まった。
イランは産油国で一定の経済力を持つ。2016年当時でも人口は8000万人を超え、国土面積は164万平方キロメートル以上ある。古代遺跡ペルセポリスやエスファハンのイマーム広場など観光資源も豊富で、航空需要の伸びしろは大きかった。こうしてイラン航空業界は、機材更新を契機に生まれ変わり、世界中から人を運ぶ未来が待っているはずであった。