救急搬送が止まる可能性も? 世界で深刻化する「医療サイバー攻撃」 地域医療が直面する危機とは
医療機関を狙うサイバー攻撃が急増するなか、国内外で電子カルテ停止や救急搬送制限の被害が相次ぐ。2023年度は救急出動約760万件を記録。IoT導入や医療MaaS拡大で利便性は向上するが、セキュリティ不備が地域医療全体の脆弱性を露呈している。
医療機関狙うサイバー犯罪

世界的にサイバー犯罪は増加し、手口も巧妙化している。特に医療機関は、大量の機密性の高い個人情報を扱うため、攻撃の標的になりやすい。
米国では2024年5月10日、最大手民間医療法人のアセンションがサイバー攻撃を受けた。救急車の出動中止や薬局閉鎖を余儀なくされ、傘下140か所以上の医療機関や介護施設に甚大な影響を与えた。通常業務に戻るまで約6週間を要し、一部の病院では救急搬送の制限や他施設への救急車派遣が行われたことが判明している。
さらに同年9月26日、テキサス州ラボックの公立病院UMCヘルスシステムでも、約3週間にわたるサイバー攻撃で大規模なシステム障害が発生した。外部第三者がネットワークにアクセスし、少なくとも約5000人分の個人情報が漏洩したと公表されている。重要システムが利用できない状況により、患者の他施設への移送や救急車の受け入れ規制が実施された。
日本でも被害は深刻だ。2022年10月31日、大阪急性期・総合医療センターではランサムウェアによってサーバーの大部分が暗号化され、長期間システムが使えなくなった。
このように医療機関がサイバー攻撃を受けると、長期のシステム機能不全に陥る事例が相次いでいる。機能停止により救急搬送が受けられず、救急車は迂回せざるを得なくなる。救急出動件数が急増する昨今、地域全体への影響は極めて大きい。