なぜ地域交通ICカードの「10%上乗せ」は消えるのか? 鹿児島「ラピカ」廃止で露呈した地方交通の構造破綻
プレミア制度に終止符

『南日本新聞』(2025年6月9日付)では、以下のような実情も報じられている。
鹿児島県内の路線バスでは、市交通局や南国交通の「ラピカ」と、鹿児島交通の「いわさきICカード」という2種類のICカードが定着している。利便性向上のため、Suicaのような全国共通ICカードへの転換を求める声もあったが、初期投資や維持費が重く、事業者間の足並みも揃わず、実現には至らなかった。
地元ICカードには、チャージ時に1割が加算される仕組みがある。これは共通回数券時代の名残で、2005(平成17)年の導入開始から続いてきた。所有者にとっては魅力的なサービスだったが、2025年10月で廃止される見通しとなった。
利用者減に加え、新型コロナ禍、運転手不足が重なり、交通事業者の経営は悪化。2025年1月、民間バス事業者は鹿児島市と市議会に廃止を求める要望書を提出した。その文書には、地域交通の逼迫した実態が率直に綴られていた。
加算分は各社が自ら負担していた。利用者が多いほど負担額も増える。市バスの2023年度の運送収益(貸し切り除く)は8億7700万円。加算がなければ、3100万円多い9億800万円の収益となっていた。鹿児島交通の負担は年間6000万円、南国交通は4000万円にのぼる。担当者は「収益と比較してみても決して小さな額ではない」と語っている。
つまり、回数券時代から続いてきた10%加算は、今や事業者の財政に重くのしかかっていたということだ。だが、市議会に無断で廃止するわけにもいかず、やむを得ず廃止要望書を提出。10月での終了が正式に決まったという流れである。
同様の動きは他地域でも見られる。2024年10月、福島交通の地域ICカード「NORUCA(ノルカ)」では、プレミア加算率が10%から6%に引き下げられた。1万円チャージ時の残高は、従来の1万1000円から1万600円に減った。
この変更は、回数券時代の恩恵が維持困難となっている現実を突きつける。もはや「10%上乗せ」は、地域ICカードの標準的なメリットとはいい難い状況に追い込まれている。