なぜ地域交通ICカードの「10%上乗せ」は消えるのか? 鹿児島「ラピカ」廃止で露呈した地方交通の構造破綻

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「1万円チャージで1万1000円分」──地方交通を支えたICカードの“10%上乗せ”が今、制度破綻の危機にある。鹿児島では年間6000万円超の事業者負担が限界に達し、ついに廃止決定。全国で揺らぐ“回数券の遺産”の行方に注目が集まる。

地域交通支援策の限界

鹿児島市内のバス停(画像:写真AC)
鹿児島市内のバス停(画像:写真AC)

 地方都市では、主に路線バスで利用されてきた磁気式回数券が存在する。当然、全国共通ではなく、地域限定のカードである。

 この回数券を買うことは、いわば「今後使う乗車券のまとめ買い」にあたる。一般的に、まとめ買いは都度購入よりも割安になる。磁気式回数券には、「1万円で1万1000円分の乗車券を購入できる」といった10%上乗せの特典があった。

 その後、磁気式から非接触型ICカードへと移行しても、加算サービスは地元住民の暮らしを支える仕組みとして維持されてきた。例えば、1万円をチャージすれば、残高は1万1000円となる。しかし、このサービスの継続は難しくなっている。以下は鹿児島の事例である。

 同県の県紙『南日本新聞』(2025年2月13日付け)によれば、鹿児島市交通局と船舶局は、県内交通ICカード「ラピカ」と「いわさきICカード」の1割加算サービスを、2025年10月にも廃止する方針を決定した。市は同日に発表した2025年度当初予算案に、カードリーダーのシステム改修費として約1800万円を計上。関連する条例改正案も、市議会3月定例会に提出。

 市交通局によると、2024年6月ごろ、民間バス事業者から「加算が経営を圧迫している」との相談が寄せられた。仮に民間のみで加算を廃止すれば、システム改修が必要となり、相互利用の仕組みが崩れるおそれがある。結果的に市民サービスの低下を招くとして、制度全体の廃止を決めたという。

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