「ハイブリッド回帰」は一時の逃避か? 本当に備えるべきは“エネルギー多様化”と“地政学リスク”への耐性だ

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ZEV規制撤回の波紋が広がる米国。最大7500ドルの税控除終了でBEV市場が揺らぐなか、日本メーカーはHV戦略への回帰と電動化投資の見直しを迫られている。政権交代リスク、インフラ遅延、国際競争力低下――政策依存の限界が今、問われている。

投資二重化が招く資本圧迫

自動車(画像:Pexels)
自動車(画像:Pexels)

 HVは、内燃機関と電動技術を融合させた過渡期的な製品である。既存の内燃機関車をいきなりBEVへ転換すれば、産業構造の急激な変化が避けられず、部品点数は3分の1に減少すると予測されていた。これは、労働市場にも大きな転換を強いる可能性がある。

 その点、HVはマイルドな技術革新であり、雇用の受け皿にもなってきた。トヨタやホンダなどの日本メーカーにとって、HVは既存の生産ラインや部品供給網、そして熟練人材を活かせる「安全資産」となっている。

 実際、トヨタのHV販売台数は2024年に世界で400万台に達した。北米市場でもBEV離れのなかでHVの販売が急増しており、前年比で25%以上の伸びを示している。

 確かに、HVはZEV規制下ではゼロエミッション車に該当せず、「ACC II」規制の対象外とされる。ただし、米国環境保護庁(EPA)は、トヨタのプリウスに対し高い燃費性能を評価している。市街地で57mpg(約24.2km/L)、高速で56mpg(約23.8km/L)を記録。ガソリン車からプリウスに乗り換えれば、5年間で4500ドル(約68万円)の燃料費を節約できると試算されている。さらに、プリウスの価格は2万7950ドル(約420万円)であり、富裕層以外でも購入可能な水準にある。ZEV規制が存在しなければ、市場は自然とHVを選ぶ傾向にある。

 HVは、メーカー・消費者双方にとって合理的な選択肢だといえる。しかし、これが

「持続可能な成長モデル」

となり得るかは、政策との整合性がカギとなる。HVとBEVの並行開発・生産は、構造的にコストの重複を招く。例えば、1車種あたりの開発費はBEVで約500億円、HVで約200~300億円とされる。技術人材の一部は共通化できるものの、商品化を目指せば最終的には両方への投資が必要になる。

 政策や制度の揺らぎによって販売予測の不確実性が増し、収益計画も不安定化する。ホンダは、カナダで計画していた約5000億円規模の電池工場投資を延期。資本効率の低下リスクが顕在化している。

 トヨタも、ノースカロライナ州に建設予定の約1兆円規模のBEV用バッテリー工場について、計画の見直しを検討していると報じられており、判断の難しい局面が続いている。

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