「ハイブリッド回帰」は一時の逃避か? 本当に備えるべきは“エネルギー多様化”と“地政学リスク”への耐性だ
ZEV100%目標の現実的限界

北米のBEV市場は、ZEV規制と税控除を前提に成長してきた。これは典型的な政策的誘導であり、電動化という大きな構造転換を産業界の力だけで進めるのは難しいとの認識が背景にある。そこで、政策介入によってZEVへの移行を急速に進めようとした。
カリフォルニア州が方針を転換したのは、こうした政策が性急で現実性に乏しいという判断による。2035年までに新車販売の100%をZEVにするという目標は、あと10年を切った時点で実現困難と見なされた。
ZEVは一般的に初期コストが高く、購入層も所得上位層や補助金に依存する一部の層に限られていた。欧米や中国のようにBEVシフトを過信した地域では、投資の偏重によって過剰生産や在庫膨張といった副作用も生じている。
日本の自動車メーカーも例外ではない。各社のBEV戦略の多くは、制度や補助金といった政策に依存した設計となっていた。その構造が、政権交代や政策転換の影響を強く受けることを浮き彫りにしている。
今後もZEV推進を掲げる政権が登場する可能性は否定できない。ポストSDGsに向けた議論も進んでおり、国際社会全体が方向転換するリスクもある。
さらに、米国の税額控除制度は北米産のBEVに限定される。日系メーカーはこの恩恵を受けにくく、電池の調達先や生産設備の問題も残る。モーターやインバーターを含む専用設備の確保は容易ではない。
2024年時点で、トヨタの米国市場におけるBEVシェアは1%未満、ホンダはほぼゼロに近い。これまで米国市場で成果を上げてきた日本勢は、現地政策の変化に翻弄される形となった。
先行投資が「負債」と化すリスクもある。未稼働の電池工場などの扱いも判断が難しくなっている。今後、政策が再びZEV拡大に動くことも想定されるなか、ハイブリッド車(HV)を軸にしつつ、電動化技術を磨く現実的な戦略が必要となる。
政策と制度への過度な依存が、BEVの構造的な限界を浮き彫りにしている。