関釜フェリーの素晴らしさを語りたいのに「やばい!」しかでてこない【リレー連載】偏愛の小部屋(10)
やばいポイント4「帰路での驚き」

復路はさらに驚きの連続となる。その様相は、ときに笑いを誘うほどだ。
まず、乗船時の光景が目を引く。飛行機なら超過料金の対象となりそうな大量の荷物を、乗客たちは余裕の表情で運んでいる。韓国海苔の段ボール箱を幾重にも積み上げたカートを押す年配の女性。日本人でも
「韓国海苔の段ボール箱」
を抱えた人は意外に多い。
ここでは「お土産を買いすぎた」という後悔の声は聞こえない。むしろ「もっと購入すべきだった」と悔やむ声のほうが多いかもしれない。しかし、下関到着後には、税関という名の“最終関門”が待っている。
下関の税関は、意外にも厳格な印象を与える。正確にいえば、日本人の利用が少ないがゆえに、ひとりひとりが注目の的となるのだ。入国審査の列はパスポート別なので、まるで舞台のスポットライトを浴びているかのような錯覚に陥る。
筆者の体験を率直に述べよう。
あるとき、両手に韓国海苔の段ボールを抱えて税関に向かうと、職員から
「今月、再度の渡航予定はありますか」
と尋ねられた。どうも業者かと思われていたらしい。別の機会には、コンビニで購入した野菜キンパが没収された。
「肉を使った食べ物を持っていますか」
と尋ねられたので、「野菜キンパだけですね」と答えたところ、
「ちょっと見せてください」
というのだ。そのまま取り出したところ、申し訳なさそう声で
「すみません、ハムが含まれていますね」
とのこと。例え僅かなハムの切れ端であっても対応は厳格なのだと知った。
そして、忘れられない出来事もある。「東京在住の方ですね?なぜこのルートで帰国されたのですか?」と質問され、荷物の全検査になり、最後に「金などを持っていませんか?」と。筆者は、そんなに悪い顔をしてたのだろうか。
この厳格な検査に、他の乗客たちはどう対応しているのだろうか。実のところ、自分の番を待つ緊張感で周囲を観察する余裕はない。おそらく皆、心のなかで無事通過を祈っているに違いない。
しかし、この体験こそが、関釜フェリーの旅の醍醐味(だいごみ)ともいえる。
・日常では味わえない緊張感
・無事通過後の安堵(あんど)感
・大量の土産品を持ち帰れた満足感
これらが相まって、後々笑い話になり、忘れがたい思い出となるのだ。