関釜フェリーの素晴らしさを語りたいのに「やばい!」しかでてこない【リレー連載】偏愛の小部屋(10)
やばいポイント3「万博誘致失敗」

13時間の船旅を終え、釜山港へ。下関の昭和感漂うターミナルとは打って変わって、そこには超豪華な国際旅客ターミナルが広がっているのだ。2015年に完成したこの新ターミナルは、とにかく巨大だ。関釜フェリーだけでなく、
・博多港
・大阪港
・対馬
との航路も発着するため、その規模は圧倒的である。下関のレトロな雰囲気とは対照的に、ここではあらゆるところから新しさが際立っている。未来的な外観、広々としたロビー、最新の設備。まるで、タイムマシンに乗って未来にワープしたかのような錯覚を覚える。しかし、このターミナルの凄さは、その豪華さだけにとどまらない。
開業当初、ターミナル周辺はまだ整備が進んでおらず、資材置き場や空き地が広がっていた。釜山駅まで歩こうものなら、トラックが行き交う港の道を横切り、駅の裏口のような場所にたどり着くと冒険さながらの経験ができた。その道中、あちこちでたばこを吸う人々の姿が見られ、吸い殻が路上に散乱している光景は、ある意味で釜山の「味」だった。
ところが現在、その光景は劇的に変わっている。釜山駅からは空中歩道が整備され、眼下に広がっていた空き地は美しい公園へと生まれ変わった。この変化は、釜山の国際化への意気込みを如実に物語っている。かつての「野性的」な雰囲気は影を潜め、代わりに整然とした都市景観が広がっているのだ。
この急激な変貌の裏には、2030年釜山万博誘致への熱い思いがあった。韓国政府と釜山市は、総事業費約6兆5000億ウォン(約7400億円)を投じ、釜山港の一部を会場候補地として整備を進めてきた。その結果、釜山市内には高層ビルが立ち並び、インスタ映えする観光スポットも続々と誕生。特に若者たちの間で人気の観光地となっていた。新旧の観光スポットが融合し、釜山は韓国随一の観光都市としての地位を確立しつつあった。
しかし、2023年11月、パリで開かれた博覧会国際事務局(BIE)の総会で、2030年万博の開催地はサウジアラビアの首都リヤドに決定。釜山の誘致は失敗に終わった。投票結果は119対29という圧倒的な差で、決選投票すら行われなかったのだ。
この結果を受け、釜山の未来図は大きく揺らいでいる。万博を見越して進められてきた大規模な都市開発。その行き先が突如として消失してしまったのだ。整備された施設や観光スポットをどう活用していくのか。投資された巨額の資金の回収は可能なのか。これは釜山市民の誰もが危うさを感じずにはいられない状況だ。