4年で108人死亡 岡山県「人食い用水路」はなぜ誕生したのか? 危険性は近年緩和も、そもそも存在するワケとは
「人食い用水路」が存在する理由
筆者(昼間たかし、ルポライター)は2023年、当媒体に「4年で108人死亡 岡山県「人食い用水路」はなぜそのままにされているのか? 少なくない“柵”反対の声、驚きの理由とは」(2023年4月9日配信)という記事を書いて、凄まじい反響を得た。
あまりにも凄まじかったので、後日、「毎日誰かが用水路に食われている…4年間で108人死亡の「岡山県の人食い用水路」が野放しのままなワケ」(2023年6月24日配信)という記事をプレジデントオンラインに依頼されて書いたほどだ。
記事では、
「人食い用水路」
「殺人用水路」
と呼ばれる、岡山市や倉敷市に危険な用水路が多数あり、2013(平成25)年から2016年の間に1562件の転落事故が発生し、
「108人」
が亡くなったことを取り上げた。転落事故は年平均では391件で「1日1件以上」発生している計算だ。事故に遭った人のうち中等症以上(死亡・重症・中等症)のけがを負ったのは全体の47%にあたる736人である。
行政は対策を進めている。普通に考えたら「なぜ柵を設置しないのか」なのだが、全ての用水路に柵を設置することは不可能であり、岡山の土地柄、用水路への転落は
「恥ずかしい」
と捉えられがちで、問題が表面化しにくいことにも触れた。本稿ではさらに踏み込んで、なぜ岡山に危険な用水路が多いのか、岡山市出身の筆者がその歴史的背景と都市開発の影響について掘り下げていく。
膨大な「人食い用水路」が存在する理由は単純だ。岡山県南部の広い範囲が
「干拓地」
だからである。干拓地とは、湖や沼地、海などを堤防で仕切ることによって、干上がった土地や排水された土地を指す。
岡山県南部での干拓は江戸時代から始まり、明治時代にはオランダの技術を取り入れてさらに大規模になった。干拓地では排水のために水路が不可欠で、用水路の数が必然的に多くなる。その結果、転落の危険性が高い土地が生まれたのだ。