関釜フェリーの素晴らしさを語りたいのに「やばい!」しかでてこない【リレー連載】偏愛の小部屋(10)

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1970年、日韓の海の架け橋として誕生した関釜フェリーは、半世紀以上にわたって日韓の交流を支えてきた重要な航路だ。下関と釜山を1日1往復し、約13時間の航海を経て、実際の所要時間は約8時間である。

やばいポイント1「ターミナルのショボさ」

地方駅の待合室のようだが、ここが下関の国際ターミナルである(画像:昼間たかし)
地方駅の待合室のようだが、ここが下関の国際ターミナルである(画像:昼間たかし)

 関釜フェリーに乗船するため、意気揚々と下関港国際ターミナルに到着した旅行者は、まず驚くことだろう。そこには、国際航路の玄関口とは思えないほどの寂しさが漂っているのだ。

 1988(昭和63)年に完成したこのターミナルは、CIQ施設(税関・出入国管理・検疫)を完備した日本最初の外国航路用旅客ターミナルだ。つまり、古い。

 下関駅から空中歩道で直結しているため、迷うことなくアクセスできるのに、肝心のターミナル内の設備は驚くほど乏しい。ターミナル内には駅の売店と同程度の小さな売店があるだけだ。おまけに、周辺にはコンビニすらない(一番近いコンビニは下関駅)。つまり、早めに到着しても時間をつぶす場所がない。筆者もそうだが、大抵の旅行者は、空中歩道を降りて駅周辺で買い物にすることになる。

 この寂しさの理由は、なにか。大きな原因は

「利用者数」

だ。日韓航路ではもっともメジャーな関釜航路だが、利用者数で比べると

「裏街道」

のようなもの。前述の国土交通省の統計によれば、2023年度上半期の輸送人員は、博多~釜山航路が10万9473人となっており、関釜航路は倍以上差をつけられている。

 博多~釜山航路には高速船も就航しており、所要時間はこの航路に就航している高速船なら所要時間は3時間40分。貨物輸送には欠かせない関釜フェリーだが、旅客はさっさと移動できるほうを選ぶのだ。いわば、新幹線があるのに在来線を利用しているようなものだ。結局、旅客面では

「落ち目」

という状況が、うらぶれた雰囲気……「やばさ」を生み出しているのだ。もちろん誉め言葉である。

 仕方ないので乗船開始まで下関の街をぶらついても、こちらもアレだ。下関は、典型的な

「駅前崩壊」

を起こしている都市である。休日ともなれば駅前はほぼ無人だ。駅前にある「シーモール下関」は山口県最大のショッピングセンターとされるが、なぜ営業が成り立つのか不思議なくらいに人がいない。

 この光景を目の当たりにすると、ついつい口ずさみたくなるのが名曲『釜山港へ帰れ』だ。日韓ともに心をうつメロディーが、この街にぴったりと合う。まだ旅立ってもいないのに望郷の念が湧く……それほどまでに、下関の国際ターミナルとその周辺は「やばい」のだ。

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