関釜フェリーの素晴らしさを語りたいのに「やばい!」しかでてこない【リレー連載】偏愛の小部屋(10)
やばいポイント1「ターミナルのショボさ」

関釜フェリーに乗船するため、意気揚々と下関港国際ターミナルに到着した旅行者は、まず驚くことだろう。そこには、国際航路の玄関口とは思えないほどの寂しさが漂っているのだ。
1988(昭和63)年に完成したこのターミナルは、CIQ施設(税関・出入国管理・検疫)を完備した日本最初の外国航路用旅客ターミナルだ。つまり、古い。
下関駅から空中歩道で直結しているため、迷うことなくアクセスできるのに、肝心のターミナル内の設備は驚くほど乏しい。ターミナル内には駅の売店と同程度の小さな売店があるだけだ。おまけに、周辺にはコンビニすらない(一番近いコンビニは下関駅)。つまり、早めに到着しても時間をつぶす場所がない。筆者もそうだが、大抵の旅行者は、空中歩道を降りて駅周辺で買い物にすることになる。
この寂しさの理由は、なにか。大きな原因は
「利用者数」
だ。日韓航路ではもっともメジャーな関釜航路だが、利用者数で比べると
「裏街道」
のようなもの。前述の国土交通省の統計によれば、2023年度上半期の輸送人員は、博多~釜山航路が10万9473人となっており、関釜航路は倍以上差をつけられている。
博多~釜山航路には高速船も就航しており、所要時間はこの航路に就航している高速船なら所要時間は3時間40分。貨物輸送には欠かせない関釜フェリーだが、旅客はさっさと移動できるほうを選ぶのだ。いわば、新幹線があるのに在来線を利用しているようなものだ。結局、旅客面では
「落ち目」
という状況が、うらぶれた雰囲気……「やばさ」を生み出しているのだ。もちろん誉め言葉である。
仕方ないので乗船開始まで下関の街をぶらついても、こちらもアレだ。下関は、典型的な
「駅前崩壊」
を起こしている都市である。休日ともなれば駅前はほぼ無人だ。駅前にある「シーモール下関」は山口県最大のショッピングセンターとされるが、なぜ営業が成り立つのか不思議なくらいに人がいない。
この光景を目の当たりにすると、ついつい口ずさみたくなるのが名曲『釜山港へ帰れ』だ。日韓ともに心をうつメロディーが、この街にぴったりと合う。まだ旅立ってもいないのに望郷の念が湧く……それほどまでに、下関の国際ターミナルとその周辺は「やばい」のだ。