ローカル鉄道の輸送密度「1万人以下切り捨て」で見えてきた“明治初期への回帰” JRは結局、誰のために列車を走らせているのか?

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ローカル線の廃止は、地域の衰退や利便性の低下につながりかねない。鉄道には単なる輸送手段以上の価値があり、収益性だけでなく多様性という観点からも議論されるべきである。

消える日本列島の「かたち」

国交省・JR各社資料より著者作成(画像:上岡直見)
国交省・JR各社資料より著者作成(画像:上岡直見)

 鉄道の経営状態を示す数値として「ある区間を、1日に何人の旅客が通過しているかを」を示す「輸送密度(人/日)」という数字がある。感覚でいうと、

・大都市圏のJRや大手民鉄:10万~数十万人/日
・地方都市圏の幹線:数万人/日
・ローカル線や中小民鉄:数千~1万人/日

程度である。JR三島会社(北海道・四国・九州)では約7000人/日である。

 ちなみに欧州連合(EU)圏では、最も高いオランダで約1万7000人/日、EU圏全体平均で約5800人/日である。つまりEU圏は全体として

「JR北海道・JR四国以下」

のローカル線であるが、近年は環境の観点から鉄道活用を政策として推進している。日本の鉄道の輸送密度が桁ちがいに高いのは

「詰め込み輸送」

の結果であり、JRはじめ鉄道会社にとっては「コスパ」がよいだろうが、利用者にとって望ましい状態なのかといえば首をかしげざるをえない。採算性の観点だけからみると

「数千~1万人/日前後」

が企業的に成立する分岐点とされる。もし1万人/日以下の線区を切り捨てたら日本の鉄道ネットワークはどうなるだろうか。

 実は新幹線でも1万人/日を割る区間が存在するが、さすがに新幹線を細切れにはしないだろうから新幹線は全線残るとした。現在は鉄道路線で日本列島の形が描けているが、1万人/日以下を切り捨てると日本列島はやせ細った形になってしまう(図参照)。新幹線を除くと

「明治初期の姿」

に相当する。1980年代に旧国鉄の分割民営を推進した自民党は、「鉄道ネットワークが崩壊するのではないか」という国民の疑念に対して、極端に輸送量の少ないローカル線(特定地方交通線)以外は維持するとアピールする意見広告を全国の新聞に掲載した。それから三十数年間、いくつかの路線廃止はあったものの辛うじてネットワークは維持されてきた。

 しかし最近、日本で初めて鉄道が運行された1892(明治25)年から150年を過ぎた2023年2月には「地域公共交通活性化法改正法」(正式名称は「地域公共交通の活性化及び再生に関する法律等の一部を改正する法律案」)が閣議決定された。詳細はここで解説する余裕がないが、活性化をうたってはいるが、暗にJRを念頭に置いて

「不採算路線の切り捨て」

を容易にする道筋をつけ、鉄道を残したければ地方自治体で負担せよという趣旨の法律である。

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