タクシー運転手試験「20言語対応」という愚策 安易な多言語化は「乗客の危険」を招くだけだ

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警察庁は、タクシーやバスなど旅客を輸送する自動車の運転に必要な「第2種運転免許」について、外国語による試験を認めることを決めた。しかし、その拡大は疑問が残る。

多言語化への批判

タクシー(画像:写真AC)
タクシー(画像:写真AC)

 多言語化を実現するための大前提は、それに対応できる人材の必要性である。

 日本では日本語が実質的な公用語であり、日本語以外を話す人はほとんどいない。具体的な統計はないが、最も使用頻度の高い英語でさえ流ちょうに話せる日本人は人口の

「約10%」

と推定されている。

 公用語がふたつ以上ある国は、さまざまな方法で多言語化を達成している。カナダでは英語とフランス語が公用語であり、多くの政治家が両言語を話す。スイスでは、ドイツ語、フランス語、イタリア語、ロマンシュ語が公用語であり、道路標識や商品には複数の言語が使われている。さらに、その他の地域言語も学校で教えられており、多言語を話す人も多い。中国ではさまざまな方言が存在するが、普通話(北京語)を教えることで国内の相互理解を促進している。

 つまり、多言語が生活に根付いている文化圏では、

・表記の多言語化
・話者の存在

が当たり前なのである。ここから、警察庁が考えている方針の欠点が見えてくる。

 日本では道路標識の多言語化は限定的で、主に英語である。母国語で受験できるとしても、実際には日本語と英語の能力が不可欠である。

 このように、制度変更には現実的な運用上の課題が残る。場合によっては、2種免許を持っていても交通標識を十分に理解できず、勤務先でのコミュニケーションが困難な運転手が量産されることにもなりかねない。その結果、危険にさらされるのは誰か――。

「乗客」

である。

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