「コンパクトシティ」という名の経営戦略 カギは公共交通 奏功して地価上昇も

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富山市の地価が、住宅地は6年連続、商業地は8年連続で上昇している。背景にあるのは市による公共交通を軸としたコンパクトシティ政策だ。人口減と都市の拡散、住民サービスのコスト増に直面した富山市がとった手法とは。

富山市が「長い目」で進めたコンパクトシティ政策

富山市中心部の総曲輪(そうがわ)通り商店街(森口将之撮影)。
富山市中心部の総曲輪(そうがわ)通り商店街(森口将之撮影)。

「公共交通が軸」と銘打っているように、改革の柱はモビリティだった。2006(平成18)年、JR西日本が運行していた富山港線を日本初のLRT(次世代型路面電車)に生まれ変わらせ、富山地方鉄道の富山軌道線(通称、市内電車)では環状線を復活させると、2020年には富山駅を挟んで伸びていた両線の南北接続を実現。JR高山本線では増発や新駅設置も行った。

 これに合わせて、環状線沿線にはイベント広場の「グランドプラザ」、ガラス美術館と市立中央図書館が入る「TOYAMAキラリ」などを建設。まちなかのマンションでは建設会社と移住を望む住民の双方に補助金を用意して移住を促した。

 筆者は2011(平成23)年、当時の森市長をはじめとする富山市の関係者を取材し、『富山から拡がる交通革命』(交通新聞社)にまとめた。しかしこの時代はまだコンパクトシティは進行中で、まちなかに投資が集中する状況が不公平だという指摘もあった。

 しかしこれも戦略の一つだった。広大な市内全域にまんべんなく投資していたら、予算がいくらあっても足りない。そこでコンパクトシティによりまちなかの魅力を高め、居住を誘致することで資産価値を向上させて税収増につなげ、それを郊外に分配していく手法をとったのである。

 その結果、30年にわたり減少の一途だったまちなかの人口は増加に転じはじめ、最初に紹介したように地価も上昇するようになった。税収も2003(平成15)年度の552億円から15年後の2018年度は749億円へ増加した。

 確かに公共交通への投資は巨額で、そこだけを取り上げて批判する人もいるようであるが、まちなか居住の進展や税収増という結果は出ている。まちづくりは長い目で見て判断すべきであることを教えられた。

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