「私たちは戦争に加担しない」ドローン世界最大手の中国「DJI」がウクライナ・ロシアでの販売を中止したワケ

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2022年4月、ドローンのトップメーカーである中国企業「DJI」はウクライナ、およびロシアの両国で自社のドローンの事業から撤退すると発表した。いったいなぜか。

順風満帆ではなかった地位獲得

DJIのウェブサイト(画像:DJI)
DJIのウェブサイト(画像:DJI)

 しかし、主な理由はそれ以外にもあるのではないだろうか。

 戦争もしくは戦争報道に同社のドローンが使用されていることに対して、ちょうどドローンの新しい価値である

「人命救助」

を企業使命の中核にしつつあったDJIの経営陣が大いなる危機感、もしくは嫌悪感を抱いた結果ではないか、と思われるのだ。

 これまでの同社の歩みや、最新の製品ラインアップ、そして企業メッセージを冷静に受け止めると、そこにはDJI経営陣のドローンビジネスへの志や、したたかな立ち回りが見えてくるのである。

 2006年に創業したDJIは、そのブランドイメージをアップルに重ね、2012年の主力機、Phantomシリーズの発売から、わずか3年で世界の商用ドローン7割のシェアを獲得するに至った。

 2016年には旗艦店を新宿にオープンし、同年のPhantom4Pro、そしてInspire2の発売で、名実ともにドローンのトップメーカーの地位をゆるぎないものとした。この2機種は2017年からDJIが協賛した世界ラリー選手権(WRC)においてハイスピードかつ過酷なレースの空撮を、ヘリによる撮影ではあり得ない近接距離で可能とし、モータースポーツの映像に革命をもたらした。

 さらにはアポロ11号で月面を撮影した中判カメラの名門、スウェーデンの「ハッセルブラッド」を同じく2017年に買収した。その結果、翌年の製品から、DJIの幾つかの機体に名門「ハッセルブラッド」のブランドを冠するカメラが搭載されている。

 順調な成長を遂げる一方で、2015年1月にはアメリカ合衆国のホワイトハウスに、同年4月には日本の首相官邸に同社のドローンが侵入する事件を起こしている。それ以外にも、日本では墜落によって幾つかの人身事故も報じられた。

 また、安全保障上の理由から2017年から幾度となく、アメリカでも日本でも政府によるDJIドローンの排除の発表がなされている。が、その一方で他に類がない性能から、すでに両国の官公庁や消防・警察などのドローンの8割近くが同社製であったなど、まさにイタチごっこが続く状態となっている。

 つまり、DJIにとって今日のドローントップメーカーとして地位の獲得も、決して順風満帆な経緯ではなかった訳である。

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