最強パワーボート兼最高級クルーザー! 米レイクタホで余生を過ごす伝説の「サンダーバード」をご存じか
「世界最高のウッドボート」を

このボートをデザインしたのは、1930年代から1940年代にかけて数々の名作を世に送り出した、アメリカを代表する有能なボートデザイナー、ジョン.L ハッカー。そして、彼にデザインをオーダーし、さらにハスキンに製造を発注した人物の名はジョージ・ウィッテル。ウィッテルの家系は、1849年のカリフォルニアにおけるゴールドラッシュをきっかけに鉱山経営で莫大(ばくだい)な富を得た地元の名士であり、ジョージは若い頃からクルマ、飛行機、そしてボートにのめり込んでいた。
ちなみに、コアな乗り物趣味を極めていた彼にとって最良のクルマとは、他でもないデューセンバーグであり、1920年代から1930年代初めにかけて、クルマ好きとしてその名を知られていた俳優のクラーク・ゲーブルやゲイリー・クーパーと競い合うように、6台ものデューセンバーグを次々とオーダーしたと言われている。
一方、飛行機の方はというと1930年代における最新の旅客機だったダグラスDC2を自家用機として使用。この機体の内装は完全なスペシャルオーダー品とあって、どこへ乗り付けても注目を集めた。ちなみにサンダーバードというのは、もともとこのDC2に付けられていたニックネームだった。
そんな彼が、1930年代の終わりに自身の夢であった世界最高のウッドボートの実現を目指して製作したのが「サンダーバード」だった。オリジナルのエンジンはケルマス製V型12気筒550hpのシーレンジャーが2基。建造に要した費用は8万7000ドルと伝えられており、これは現在の価値に換算すると300万ドル以上に相当した。
「サンダーバード」はハスキンボートのファクトリーで大まかに組み立てられた後、いったん分解してレイクタホに運ばれ、ウィッテルが自宅近くに新たに造った巨大なボートハウス内で組み立てられた。完成したのは1940年7月14日のことである。
お披露目と同時に、ウィッテルと彼の新しいボートは瞬く間にレイクタホにおける人気者となった。彼と彼の友人たちは、ボートハウスに併設されたロッジにおいて気ままにパーティーを行うと同時に、時折サンダーバードを豪快に走らせていたのである。