タクシー業界「新卒採用」大幅増は本当にめでたいのか? データの裏にあった、絶望的「人材不足」と「地域偏重」
新型コロナウイルスの感染拡大でタクシー業界は大打撃を受けたが、その一方、新卒でタクシー運転手になる若者が増えている。業界にとって本当に明るいニュースなのか。
新卒採用の裏に人手不足あり

これらの調査から推測されるのは、タクシー業界では新卒採用に積極的であるが、労働環境や賃金は決して高いものではなく、新卒者の増加数も業界の動向に影響を与えるほどのものではないということだ。
新卒採用が積極的にアピールされる背景には、コロナ禍での
「運転手不足」
がある。
コロナ禍の感染リスクを避けて、高齢運転手の退職が相次いだ。さらにインバウンド(訪日外国人)需要が壊滅した京都市では、2011年度末に1万850人だったタクシー運転手が、2022年5月に
「6400人」
まで減少している。
2022年は3年ぶりに緊急事態宣言のない夏を迎え、観光業も復活した。今後、外国人の入国制限が緩和されれば、インバウンドが本格的に戻ってくることが想定されるものの、このままでは十分な運行ができない。
また、若手の採用数増加は局地的な現象でもある。2021年の都道府県別新卒採用数を見ると、東京都が690人と圧倒的に多く、愛知県の65人、京都府の57人と続く。むしろ、新卒採用数がゼロの県のほうが圧倒的に多い。このことからも、人手不足に対する新たな対策として、新卒採用が
「積極的に吹聴されている」
と見られる。
次世代のタクシー運転手とは

ただ、そんなタクシー業界にも新技術の導入により変化が起こっている。タクシーアプリの普及により、効率的に乗客を運んで収益をあげられるようになった。また、今後自動運転が普及すれば、タクシー運転手は自動車を運転する仕事から、新たなサービス職へと転換するだろう。
そう考えると、従来の「運転技術にたけて」「道路を知り尽くした」ベテランではない、新たな運転手像――すなわち、
「乗客ケアにたけたサービスマン」
が求められていることは確かだ。果たして、新卒採用が増える背景に、そこまでの見通しがあるのだろうか。