タクシー業界「新卒採用」大幅増は本当にめでたいのか? データの裏にあった、絶望的「人材不足」と「地域偏重」

キーワード :
, ,
新型コロナウイルスの感染拡大でタクシー業界は大打撃を受けたが、その一方、新卒でタクシー運転手になる若者が増えている。業界にとって本当に明るいニュースなのか。

年間平均賃金は248万5700円

タクシー労働者と産業計男性労働者の労働条件比較(画像:自交総連のデータを基にMerkmal編集部で作成)
タクシー労働者と産業計男性労働者の労働条件比較(画像:自交総連のデータを基にMerkmal編集部で作成)

 しかし、タクシー業界はそんなに魅力的な業界なのだろうか。前述の自交総連では毎年「タクシー労働者と産業計男性労働者の労働条件比較」を発表している。

 最新の2021年版によれば、全国の平均(単純平均=各組合の賃上げ額を単純に足して平均値を集計する方法)は次のようになっている。

●タクシー労働者(男女)
月額給与:20万400円
年間給与:240万5200円
年間賞与:8万500円
合計:248万5700円

●産業計男性労働者
月額給与:34万円
年間給与:408万600円
年間賞与:87万3700円
合計:495万4200円

 給与水準は、タクシー労働者のほうが明らかに低い。タクシー労働者のほうが優れた点があるとすれば労働時間だ。こちらは、次のようになっている。

●タクシー労働者(男女)
月間:172時間
年間:2063時間

●産業計男性労働者
月間:181時間
年間:2171時間

 交通事業者であるタクシー運転手は、法令により

・勤務時間
・休息時間

が定められている。そのため、月間ベースで一般企業の労働者に比べると1日半ほど労働時間は短くなる。

 それに引き換え、生じる賃金格差は全国平均で月額約14万円。労働時間の安定と引き換えに、この差を受け入れることになる。

景気の影響をあからさまに受ける職業

タクシー(画像:写真AC)
タクシー(画像:写真AC)

 年間賃金の248万5700円は、1980(昭和55)年より少ない(254万7400円)。1980年以降、年間賃金は増加し、1991(平成3)年にピークの382万1500円になった後、減少。2020年に300万円を割り込んで、現在に至る。

 2009年にはリーマンショックの影響を受けて、過去最低の244万9100円にまで落ちるなど、タクシー運転手は

「景気の影響をあからさまに受ける」

職業なのだ。

 また、別の統計では、労働時間すら全産業平均よりも長いとするものもある。国土交通省が2014年に示した推計値では所定内実労働時間数に超過実労働時間数を足した労働時間では、

・タクシー:年間2304時間
・全産業:年間2172時間

としている。どうも「労働時間は短い」も一概にはいえないようだ。

 また同じ年に国土交通省が示した、タクシー事業における「39歳」までの割合の推移を見ると、2002年に8.0%だったものが、2014年には

「4.3%」

と半減している。ここからは新卒は増加しているものの、若い世代はいったん就職しても辞めてしまう人も多いことが見てとれる。

全てのコメントを見る