赤字額は「5億円超え」も 山口県「岩徳線」が廃線にならない特殊事情

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現実味を増してきた赤字ローカル線の存廃問題だが、山口県内を走る岩徳線の場合、そうも簡単にいかなそうだ。その理由とは?

平均赤字額は「5.4億円」

岩徳線(画像:写真AC)
岩徳線(画像:写真AC)

 JR各社の収支公表以来、赤字ローカル線の存廃問題は現実味を増してきた。そのなかでも、廃止されたら、ほかでは見られない問題が起こりそうなのが、山口県内を走る岩徳線(がんとくせん)だ。なぜなら、岩徳線の存廃が「山陽新幹線の運賃計算」に影響を及ぼす可能性があるためである。

 岩徳線は、山口県岩国市の岩国駅から周防高森駅を経て、周南市の櫛ケ浜駅(くしがはまえき)まで至る、全長43.7kmの全線非電化の路線だ。沿線の岩国、周南、下松の3市は、2017年に山口県、JRと協議会を設立し、利用促進のイベントなどを企画してきた。

 しかし、2022年4月にJR西日本が行った収支公表で、2017~2019年度の営業利益の平均赤字額は岩国~櫛ヶ浜間で

「5.4億円」

となっており、今後、バス路線への転換を含めた運行見直しの協議が必至の状況になっている。

全通は1934年

櫛ケ浜駅と岩国駅の位置関係(画像:(C)Google)
櫛ケ浜駅と岩国駅の位置関係(画像:(C)Google)

 岩徳線は1934(昭和9)年、岩国~高水間が開業して全通した。当初は山陽本線と呼ばれ、現在の山陽本線は柳井線と改称された。ところが、勾配やカーブが多かったため、複線化工事が困難と判断され、柳井線が複線化を実施した上で、改めて山陽本線となることが決定。1944年に工事が完了すると、山陽本線から分離されて岩徳線となった。

 岩徳線には大きな特徴がある。それは、山陽本線の岩国~櫛ヶ浜間と、山陽新幹線の新岩国~徳山間は「経路特定区間」に指定されているのだ。経路特定区間とは、駅間を移動する際、距離が短い路線と長い路線があった場合、原則として短い方のルートで運賃・料金を計算するものである。JR各社の旅客営業規則で定められた。

 岩国~櫛ヶ浜間は岩徳線が43.7km(営業キロ、以下同じ)に対して、山陽本線は65.4kmとなっている。この区間では、岩国以遠(和木・大竹方面)の各駅~櫛ヶ浜以遠(徳山方面)の各駅を山陽本線利用で移動した場合も、距離の短い岩徳線回りで計算する。このため岩国~櫛ヶ浜間は、どちらを利用しても運賃は860円だ。

 ただ、単線非電化の岩徳線が1時間20分かかるのに対して、山陽本線は1時間6分。距離が短いとはいえ、時間のかかる岩徳線を利用して、この区間を移動する人が実際にいるかどうかはわからない。

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