赤字額は「5億円超え」も 山口県「岩徳線」が廃線にならない特殊事情
現実味を増してきた赤字ローカル線の存廃問題だが、山口県内を走る岩徳線の場合、そうも簡単にいかなそうだ。その理由とは?
これまで廃止されなかったワケ

さらに、この区間には特例があり、新岩国~徳山間は、岩徳線経由での岩国~徳山間と同一の47.1kmで運賃を計算することになっている。
経路特定区間は、1920(大正9)年に東北本線と常磐線、奥羽本線の間で設定されたのが最初で、以降は改廃が繰り返されてきた。例えば、中央本線の岡谷~塩尻間では1983(昭和58)年に短絡線が開通し、みどり湖駅経由と辰野駅経由ができたため、経路特定区間が設定されたが、2001(平成13)年に廃止になっている。
岩徳線に経路特定区間が設定されたのは、かつて山陽本線だったからだ。現在まで、廃止されなかった理由について、作家・種村直樹氏は『時刻表の旅』(中公新書、1979年)のなかで、1979年の運賃改定の際に検討されたものの、新幹線の運賃算定方法を巡って争われていた「新幹線運賃差額返還訴訟」が注目されていたこともあり見送られた――と記している。この訴訟が原因だったかどうかは、ほかに確認できる資料がないものの、岩徳線と山陽本線、山陽新幹線の特例は現在まで続いてきた。
岩徳線が廃止されると、運賃の算定も改定されることになり、運賃は値上がりする。差額は数百円程度とはいえ、赤字ローカル線の廃止が新幹線に影響を及ぼす“珍事”となりそうだ。
実際のところ、岩徳線が廃止され、バスへ転換されるとは考えにくい。前述の通り、JR西日本が公表した2017~2019年度の赤字額は5.4億円で、2019年度の輸送密度(1kmあたりの1日平均利用者数)は1246人と、見直し基準の2000人以下だが、中国地方の見直し区間のなかでは、最も多い人数となっている。