仁義なき航空戦争「中国編」 エアバスがボーイングに圧勝したワケ

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国の航空大手によるエアバス機の大型購入契約が報道された。その額、292機で約5兆円。ボーイングの巻き返しなるか。

ライバルB737Max10は開発中止になる?

ジェット旅客機需要予測(画像:日本航空機開発協会)
ジェット旅客機需要予測(画像:日本航空機開発協会)

 今回中国の航空会社が大量購入したエアバスのA320neoは、座席数が100席~200席の単通路の近・中距離ジェット旅客機だ。

 日本航空機開発協会の「航空機に関する市場予測2018-2037」で、A320neoは最も需要が高いクラスに属している。

 この最も需要が高いクラスにおいて、エアバスとボーイングが顧客獲得競争を展開しているのだ。エアバスA320neoのライバル機は、ボーイングのB737Maxシリーズと目されている。しかしながら、このうち最大座席数を誇るB737Max10は、他のB737Max機の墜落事故の影響を受け、アメリカの規制当局による承認をいまだ得られていない。

 その上、ボーイングのデーブ・カルフーン最高経営責任者(CEO)は、業界紙であるAviation Weekのインタビューで、B737Max10の開発中止の可能性に言及している。

 実は2020年の法改正により、2023年以降に承認される航空機は、連邦航空局(FAA)が定める最新の飛行システムへの適合が必須となった。仮にB737Max10の承認が2023年以降にずれ込んだ場合、さらなる改良が必要となる。

 デーブ・カルフーンCEOの発言は、現在600機以上の注文を受けているB737Max10の適合免除に向けたアメリカ議会へのけん制と見られている。とはいえ、中国南方航空により指摘されている納期の不確実性の要素には変わりない。

カタール航空編ではボーイングに軍配

主要民間輸送機の受注・納入状況。2022年5月末現在(画像:日本航空機開発協会)
主要民間輸送機の受注・納入状況。2022年5月末現在(画像:日本航空機開発協会)

 エアバスとボーイングによる近・中距離ジェット旅客機の販売競争で、カタール航空編では、2022年1月にボーイングに軍配が上がっていた。

 カタール航空は、およそ10年前にエアバスに注文していたA321neo 50機について、安全上の問題を理由に受取を拒否した後に、ボーイングのB737Max10 50機と貨物機52機の購入を契約したのだ。両者がしのぎを削るなか、今回の中国編で、エアバスはボーイングがカタール航空から受注した機数をはるかに上回る数を受注し、一矢を報いた。

 参考までに、2022年5月末現在における、各機体の受注残数を比較してみる。

・B737 Maxシリーズ:4477機(累計確定受注5274機)
・A320neoおよびA321neo:6016機(累計確定受注8269機)

 受注残数、累計確定受注いずれにおいても、エアバスがボーイングをはるかに上回っている。ボーイングとしては、B737Max10を世に送り出して、さらにこの差を縮めたいところだ。

 なお、今回の中国の航空会社との大型契約について、エアバスは

「今回の取引は、中国の航空業界における回復基調と明るい見通しを示したものだ。また、新型コロナ感染拡大時においても、細部にわたり時間をかけて交渉した結果だ」

と述べている。

 一方、ボーイングの広報担当者は

「地政学的な問題により航空機の輸出が制限されていることは、50年にわたり中国の航空会社と関係を築いてきた業界のリーダーとして残念である」

と、ブルームバーグの取材に答えている。