かつては“下町の工業地帯”――2社3路線が交わる大田区の拠点が「住みたい駅ランキング1位」となったワケ
街に集積する多彩な生活機能

今回のランキングで繰り返し出てくる「アクセスの良さ」や「生活の便利さ」という評価の基準は、これまでの通勤時間の短縮というひとつの指標だけでは説明しきれない広がりを持っている。
関東エリアの上位に入る駅は、都心に近いという点に加えて、複数路線への乗り換えのしやすさ、日常的な買い物の環境、医療や教育施設への行きやすさなど、さまざまな要素が重なっている。
例えば首位の蒲田周辺は、都内でも有数の繁華街や商業地だ。駅の西口や南口には、東急プラザやグランデュオ、ユヤワヤ、ドン・キホーテなどの大型店が並び、サンライズ蒲田やサンロード蒲田といったアーケード商店街も広がっている。一方、東口側には大田区役所や区民ホール(アプリコ)、警察署、税務署、郵便局、年金事務所、労働基準監督署、図書館などの公共施設が集まり、アロマスクエアを中心としたビジネス街も形成されている。
さらに駅の外側には学校などの教育機関が多く集まっている。東京工科大学蒲田キャンパスや日本工学院専門学校、佐伯栄養専門学校、東京誠心調理師専門学校、東京実業高等学校、東京都立大森高等学校、東京都立蒲田高等学校、大田区立蒲田中学校、大田区立東蒲中学校、大田区立蒲田小学校などが地域内にある。
また、医療の環境も東邦大学医療センター大森病院や東京蒲田医療センター、牧田総合病院をはじめ、病院や診療所が充実している。加えて、羽田空港への移動の拠点でもあり、徒歩11分離れた京急蒲田駅だけでなく、JR蒲田駅東口からも空港行きバスが早朝から運行されるなど、日常生活から遠距離移動までを支える体制が整っている。
これまでの便利さは、主に職場への通いやすさを指していた。しかし現在の利用者は、通勤だけでなく買い物、通学、通院、休日の過ごし方など、暮らしの中で複数の目的を持って移動している。選ばれる駅の条件は、こうした複数の目的の移動を、ひとつの場所でまとめてスムーズに処理できる方向へ進んでいる。
蒲田に見られる特徴は、徒歩や自転車で行ける狭い範囲の中に、買い物、行政、教育、医療といった多くの生活機能が詰め込まれており、日常の移動の手間が少ない点にある。それと同時に、いくつもの鉄道路線や空港バスといった遠くへ向かうための交通手段が駅につながっている。日常の移動負担をできる限り減らしながら、世界や全国へと繋がる広い移動へすぐに向かえる環境が整っているのだろう。この両面が駅を中心に直接結びついていることが大きな強みとなっている。
「移動が楽」という言葉は、目的地までの距離の短さではなく、生活に関わるすべての行動において、移動の負担や無駄がない状態を指している。この変化は、駅そのものの評価から、周囲を含めた移動環境全体の評価へと人々の視点が移っていることを示している。