自動車業界の底力を見くびるな――6割強が抱える「調べ直し」を、開発加速へ変えるナレッジ再編の最前線
中間層を蝕む「再調査」の連鎖

こうした情報のたどり着きにくさは、組織のなかでも中核を担う層ほど重くのしかかっている。現場を率いる課長やマネージャークラス、あるいは係長といった面々が、手元の材料だけでは足りずに再調査や周囲への確認に追われる。そんな光景が浮かび上がってくる。
経営の意志を具体的な動きへとつなげ、現場の知見を束ねて次の一手を示す。本来、判断と実務の結節点に立つべき彼らが、その役割とは裏腹に情報の裏付け作業に忙殺されている。なかでも深刻なのは、情報の「探索」と「整理」の双方が膨らみ、その両方に
「週15時間以上」
を費やす層が4.9%も存在していることだ。一週間の労働時間のかなりの部分が、既存情報の加工という後ろ向きな作業に消えてしまっている。
役職によって求める情報が食い違っていることも、事態をややこしくさせているようだ。部長クラスでは「競合情報・競合分析(61.1%)」が最も足りないとする一方で、実務を指揮する課長や係長クラスでは「議事録」や「過去事例」といった、組織の足跡を辿るための情報が恒常的に不足している。
知見を統合すべき人々が情報の整理に追われるいまの姿は、組織が変わりゆく過程で避けて通れない摩擦なのかもしれない。こうした層を探索の重みから解き放ち、領域を越えた知見を混ぜ合わせる本来の仕事へ戻すこと。それが結果として、組織全体の判断の質を高めていくだろう。
開発の現場において、本当に問われているのは情報の量ではないかもしれない。日々生まれるデータが、先々の判断に役立つ形で置かれているかどうか。そこが問題なのだ。不具合をどう退け、品質をどう守ったかという「経緯」への切実な需要がある。ところが、いまの情報の持ち方は業務の速さに追いついていない。情報の断片をただ残すやり方から、前後の文脈を含めた組織の財産として整えていく流れへ――こうした取り組みが、開発の効率を左右するわかれ目になってくる。
皮肉なことに、情報が積み上がるほど探しものの負担が増し、共有しようとする意欲が削がれてしまう。こうした連鎖が、組織全体の知恵の蓄積を止めている面も否定できない。探しものに時間を取られれば、新しい知見を生む心のゆとりが失われ、残される情報の質もまた下がっていく。
情報の更新が遅れれば、次の探索はさらに手間取り、組織の動きは一段と重くなる。ただ量を増やすことが、必ずしも効率の向上に結びつかないのは明らかだ。過去の経験から素早く学び、それを次の動きに映していく。そんな当たり前の循環を改めて作り直すことが、持続的な成長に向けた確かな足がかりになるだろう。