「エンジン音では何も語れません」 EV普及のカギは馬力でもトルクでもない? 年率20%超の成長が示す「次なる付加価値」とは

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EVの性能はもはや馬力やトルクでは測れない。膨大な半導体とバッテリーから発生する熱を制御する冷却・加熱システムの巧拙が航続距離や寿命を左右し、市場規模は年20.8%成長と予測される新たな産業戦線となっている。

冷却だけでなく加熱も重要

ヒートポンプシステム(画像:日産)
ヒートポンプシステム(画像:日産)

 ここまでEVの冷却について解説してきたが、実際には冷やすだけでなく、適切に加温する機能も欠かせない。

 内燃機関車はエンジンの排熱を暖房に転用できるが、EVに関しては熱源を自ら生み出し、あるいは周囲から効率的に回収する発想への転換が求められる。

 EV用バッテリーの主流であるリチウムイオン電池は特定の温度帯で性能を最大限に発揮する特性があり、極端な高温や低温の環境下では出力制限がかかる。そのため寒冷地などでEVを安定して運用するにはバッテリーの加熱が必須となる。

 しかしその加熱をすべてバッテリーの蓄電力のみで賄えば、電力消費が嵩み、結果として航続距離の低下を招く。そこで有力な技術として普及しているのが

「ヒートポンプ」

だ。ヒートポンプはエアコンの動作原理と同じ技術で、循環する冷媒を圧縮・膨張させる過程で外気の熱を効率的に取り込む。寒冷地であっても冷媒温度を外気温より低下させることで外部から熱を吸収できるため、高効率な加熱システムとして機能する。

 システムの駆動に電力は要するが、電気ヒーターによる発熱に比べて消費電力を大幅に抑えられ、EVの航続距離確保に直結する。この分野では国内最大手のデンソーが卓越した技術を保有しており、トヨタとともにハイブリッド車で磨き上げたシステムをさらに高度化させている。

 現代の熱マネジメントの核心は、車両全体で発生する熱を余さず回収し、必要な箇所へ分配する「熱の最適循環」にある。インバータやモーターの廃熱を回収してバッテリーの予熱や車内の暖房へ回す統合制御は、ハードウェアの構成以上にソフトウェアによる予測アルゴリズムが性能を決める。

 EVの冷却と加熱を統合したシステムは、車両の知能化が進むなかで重要性を増しており、市場予測が示す通り巨大な経済的価値を生む領域となった。この複雑な摺り合わせをともなう技術領域は、日本の部品メーカーが国際的な競争優位を維持するための最後の砦となっている。

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