「嫌がらせが怖くて言えない」 中小運送業者に輸送事故を押し付ける“無慈悲な商慣習”――1000万弁済でも現物没収、荷主選別の必然とは
個人責任では済まない現場構造

この手のエピソードは、「運送会社は不利な立場に置かれている」「荷主は横暴だ」といった主張を補強する材料として語られることが多い。筆者自身も、これまで同様の切り口の記事を書いてきた。
だが本稿では、あえて視点を変える。荷主の側に立ち、
「どうすれば運送会社に選ばれる荷主になれるのか」
という問いから考えてみたい。あわせて、近年注目される物流統括管理者(Chief Logistics Officer〈CLO〉)が担うべき役割についても、この文脈で捉え直す。
A社とB社の事例には、共通する課題がある。それは、荷主企業の従業員が物流の最適化をどこまで自分ごととして捉えているか、その意識の水準である。まずA社の事例から考える。
前述のような事故分析は、ビールメーカーの物流センター側でも当然把握しているはずだ。だとすれば、本件はフォークリフト・オペレーター個人のモラルの問題ではない。組織としての運用や管理体制に起因する構造的な課題である。そもそも「ビールパレットを2段積みのままフォークリフトで搬送する」というルール違反は、なぜ起きるのか。単発のミスというより、現場で常態化している可能性すらある。
次にB社の事例である。外装箱は梱包材の一種であり、本来の役割は中身の保護だ。それにもかかわらず、輸送中に起こり得る急ブレーキ程度の負荷にも耐えられない設計になっているのはなぜか。資材削減を優先するあまり、物流現場の実態が十分に織り込まれていない可能性がある。
ビールメーカーの物流センターでは、人手不足が慢性化しているのかもしれない。あるいは、小売店などの着荷主からの要請が強く、入荷や仕分け、出荷を短時間で回さざるを得ないタイトなスケジュールに追い込まれているのかもしれない。社内の風通しが悪く、ミスや問題を報告しにくい組織風土も考えられる。
B社のケースについても同様だ。環境対応を推進する部門や製品開発部門の発言力が強く、物流部門の意見が通りにくい社内の力関係があるとすれば、「環境には配慮しているが、物流には負担をかける」設計がそのまま採用されても不思議ではない。
さらに、両社に共通する弁済金の問題も見過ごせない。この非合理な弁済の仕組みを見直そうという発想自体がなく、「以前からこうしてきた」という慣習がそのまま踏襲されている可能性が高い。個々の事故やトラブルの裏には、こうした組織運営や制度設計の歪みが横たわっているのだ。