世界で稼ぐなら「10速AT」は必須? もはや無視できない「多段化」の波、カローラまで飲み込む“過剰装備”の真意とは

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内燃機関車の価値を最大化する多段ATが、8~10速へと進化。トヨタやメルセデスの最新モデルでは燃費20%向上、変速応答も高速化。環境規制と市場競争が推進力となっている。

ハイギアード化とクロスレシオ化

世界トップレベルの伝達効率を実現したトヨタの「Direct Shift-8AT」(画像:トヨタ自動車)
世界トップレベルの伝達効率を実現したトヨタの「Direct Shift-8AT」(画像:トヨタ自動車)

 多段化の最大の狙いは、燃費性能の向上にある。トヨタがこれを実現できた背景には、ギアの段数を増やすだけでなく、クラッチ機構内の摩擦材の形状を最適化するなど、細部にわたる効率改善の積み重ねがある。結果として、回転時のクラッチ損失トルクを約半分にまで抑えることができた。

 燃費向上の仕組みは大きくふたつに分けられる。ひとつめは「ハイギアード化」である。段数を増やすことで、例えば10速ATでは最高速段のギア比を高めに設定できる。高速道路での巡航時にはエンジン回転数を低く抑えられるため、燃費が改善されると同時に車内の静粛性も向上する。低回転での走行はエンジンへの負荷を減らす効果もあり、車両の耐久性が高まる。その結果、将来的な売却価格の安定といった形で、所有者にとっても実質的なメリットが生まれる。

 ふたつめは「クロスレシオ化」と呼ばれる仕組みだ。段数を増やすと各ギアが受け持つ速度域が狭くなり、隣接するギア比が近づく。これにより変速時のエンジン回転数の変動が小さくなり、効率よく燃焼できる回転域を長く使える。階段に例えれば、段数が多いほど一段ごとの高さが低くなり、スムーズに上り下りできる感覚に近い。変速の衝撃も抑えられ、乗り心地の滑らかさに直結する。

 こうした技術は、燃料消費の抑制という実利にとどまらない。滑らかで力強い走行フィールを両立させ、製品としての魅力を高める役割も果たしている。多段ATによる性能向上は、市場での競合車種との差別化を図るうえで、確かな武器となるのである。

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