欧州EVシフトは本当に「日本車潰し」だったのか?――単純な二元論では語れない、欧州政策・中国台頭・日本戦略の複雑なリアリティ
筆者の意見

結論からいえば、「EVシフト = 日本車潰し」という見方は単純化が過ぎており、必ずしも実態を正確に捉えていない。むしろ、その言説自体が結果として日本に不利に働いている側面も否定できない。
欧州のEV政策は、日本排除を目的としたものではなく、域内メーカーの経営維持や雇用確保、競争条件の作り直しを狙った制度の組み立てと位置付けられる。現在の欧州市場は大きな転換点にあり、日本車の根強い人気に加え、中国製EVの存在感も急速に高まっている。
欧州にとって、アジア勢の台頭は無視できない存在になっている。欧州の都市部は道路が狭く、コンパクトカーへの需要が高い。トヨタのヤリスが2021年に「欧州カー・オブ・ザ・イヤー」を受賞し、日本車として初めて月間新車販売台数で首位に立ったことは象徴的だ。欧州全体ではスズキの評価も高く、小型車を得意とする日本メーカーは都市構造との親和性が高い。トヨタのハイブリッド車(HV)が持つ燃費性能の高さも、支持を広げる要因となっている。
一方で、欧州市場では中国製EVの存在感が急速に拡大している。2023年には、欧州のバッテリーEV販売に占める中国製の比率が21.7%まで上昇した。世界的にも比亜迪(BYD)などの中国メーカーが低価格EVを武器にシェアを伸ばしている。スペインでは2023年の新車登録台数に占める中国車の割合が前年比3.4倍の約3万7000台となった。その約7割はガソリン車だが、EVやプラグインハイブリッド車(PHV)の浸透も進んでいる。
日本メーカーもEV技術の開発を進めており、価格は高いものの性能面では一定の競争力を維持している。こうした状況を踏まえると、欧州が警戒しているのは特定の国ではなく、日本と中国を含むアジア勢全体の台頭であると見るのが妥当だ。
欧州は2035年までに新車のCO2排出量を実質ゼロとする目標を掲げ、EVの全面普及を模索してきた。しかし2025年末時点で、その方針は一部修正の局面に入っている。背景には、EV需要の鈍化、中国製EVの高い価格競争力への警戒、そして電池開発を含む技術面で遅れを取った欧州自動車メーカーの経営的な歪みがある。欧州は中国製EVに対して追加関税を導入しており、最大で45.3%が課されるケースもある。中国勢の存在がそれだけ脅威と受け止められていることを示す。
こうしたEVシフトの修正は、電動化を含む多様なパワートレイン戦略を取るトヨタなどの日本メーカーにとって追い風となる。中国メーカーもPHVなどの技術開発を続けており、欧州ではEVよりもHVの販売に軸足を移す動きが広がっている。結果としてHVの販売は堅調で、「日本潰し」といった見方を過度に懸念する局面ではなくなりつつある。
厳しく見ても、日本の国際競争力における本質的な弱点は技術力ではない。問題は、ハイブリッドという現実的で有効な解を持ちながら、それを国際標準や制度、外交ルールにまで昇華できなかった戦略面にある。これは修復可能な課題でもある。
こうした構図を踏まえると、「日本車潰し」とする論調が広がる背景には、なお疑問が残る。日本メーカーはハイブリッドやエンジン熱効率で世界最高水準にあり、WLTCモード燃費ではヤリスが36.0km/L、アクアが34.6km/L、プリウスが32.6km/L前後と高い水準を維持している。
一方、欧州はディーゼル不正問題以降、内燃機関分野での競争優位を急速に失った。EVシフトは既存技術を相対的に無効化する側面を持ち、
「日本が強い領域」
を回避する狙いがあったことは否定できない。ただし、実際にはEV需要の鈍化や中国製EVの高い価格競争力、欧州自動車メーカー自身の反発が政策転換の主な理由となっている。中国の影響が大きいにもかかわらず、日本を標的とする論調が生まれる点には違和感が残る。